2021.12.03
- 観光
有馬温泉の源泉を愛でてみる。濃厚な「金の湯」とサイダーな「銀の湯」めぐり

神戸観光というと港町のイメージが浮かびますが、実は山が近いというのも以前ご紹介したとおり。そして、その向こうにはすぐ「有馬温泉」があります。温泉に詳しくない人でも、名前は聞いたことがあるのでは? 古くは日本書紀にも登場する「三古泉」で、枕草子でも「三名泉」に挙げられ、「三大薬湯」にも数えられているのは、日本中見渡しても有馬温泉以外、ありません。
この冬は神戸へ湯治旅に出かけてみるのはいかがでしょうか?
神戸観光の「ついで」もOK、三宮からたったの30分!
神戸の繁華街・三宮から市営地下鉄に乗り込み「谷上駅」へ。向かいのホームにやってくる神戸電鉄に乗り換え、次に目指すは「有馬口駅」。ホームの端から小さな階段を降りて乗り換え「有馬温泉駅」に出発。2回乗り換えますが、所要時間はたったの30分です。
これだけ近ければ、神戸観光の「ついで」に組み合わせることもできそう。交通手段はバスもありますが、いろいろな電車に乗れるのは楽しいです。


有馬温泉駅の改札を抜けると、空気は心なしか市街地よりも澄んでいる気がします。まずはいちばん有名な「金の湯」を目指すことにしました。緩やかな坂道が地味にきつい。荷物はスーツケースではなくリュックにして正解でした。
茶褐色の特濃温泉「金泉」を体験してみる
「金の湯」とは、有馬温泉を名湯にたらしめた赤褐色の、いかにも効能ありそうな「金泉」が楽しめる立ち寄り湯のこと。外には足湯もあり、こちらは無料で利用できます。


色にインパクトがあるのでニオイも覚悟したのですが、いわゆる「硫黄臭さ」は感じられず、強いていうなら少し金属のような香りがします。湯船の中で腕を揉み込んでみると、キュッキュと引き締まるような感覚が。まわりにお客さんがいないことを確認し、湯の中で腕を回すと、羽衣をまとったようななんともいえない感覚が。温泉について詳しいことは分からなくても、なるほど、これは名湯だと感じる湯ざわりです。気がつけば坂道での疲れもほぐれ、ぽっかぽかに温まってしまいました。
「炭酸泉」は、恐れられた死の水!?


「金の湯」を堪能した後、行ってみたいところがありました。それは「銀の湯」。無色透明の炭酸泉とラジウム泉を混合した温泉なのですが、その昔炭酸泉は泉源の近くに溜まったガスで酸欠になった小鳥や獣などが死してることもあり、毒水として恐れられていたそうです。

これが飲料水として優れていると気がついたのは、炭酸水を飲む文化がすでにあった居留地の外国人たちです。シュワシュワとする銀泉に砂糖を溶かし、明治34年、日本初のサイダーが発売され、有馬温泉名物のパリッと軽い「炭酸煎餅」が生まれました。いまも炭酸泉は泉源で飲むことが出来ますが、味は……ぜひその舌で体験してみてほしいです。

源泉パイプの交換は1週間に1度! 湯質の「すごさ」
有馬温泉のすごさは、今も衰えない人気とか、歴史深さとか、なんといってもお湯の見た目のインパクトなどから、なんとなく感じることはできます。でも、泉質の良さをもっと実感して欲しいと、ある「実験」に呼んで頂きました。
やってきたのは有馬温泉の中に7つある源泉のうちの一つ、天神源泉。

サイクリストカフェ「カーザ シクリズモ」の金井庸泰さん
「みんな手前の丸いのを源泉だと思って写真撮ってるんですけど、これは噴き出したお湯をためているところ。源泉は後ろの櫓です」
まず衝撃の事実を教えてくれたのは、「金の湯」のすぐ裏手でサイクリストカフェ「カーザ シクリズモ」を営む金井庸泰さんです。なぜ、金井さんが実験をしてくれるのでしょうか。
「有馬温泉の魅力を、どういうふうに説明していくかが、地元の課題だと思っていて、時々こうやって温泉の勉強会を開いているんですよ」
実際に実験作業を見せてくれるのは、株式会社有馬温泉企業のみなさんです。
「一般的な温泉は、地面に穴を掘ってポンプでくみ上げているイメージがあるかと思います。あれは、活火山などに熱せられた地下500〜1000メートルあたりの源泉をくみ上げているのですが、有馬温泉の近くに火山はありません。有馬温泉のお湯は、地下60キロメートルから吹き上げられていると考えられています」
60キロメートル!
「さらに有馬温泉の特徴は、大きく4つ。高温、鉄分、塩分濃度、それに二酸化炭素が含まれているということです。まずは源泉を見てもらいましょうか」

「そうなんです。金泉でも空気に触れるまでは透明なんですよね」

透明から黒くにごり、酸化して赤くなっていく様子が分かる
「そして、この高温です」

「噴き出しているのはポンプなどでくみ上げているわけではなく、お湯に含まれているガスのおかげなのですが、このガス成分を水に溶け込ませてみると……飲んでみてください」

もしかして……シュワシュワしている! おいしい炭酸水です!
「金泉にも炭酸が含まれているんです、空気に触れると消えてしまうのですが。噴き出した源泉はご覧の通り熱すぎるので、隣で少し貯めてから金の湯や各温泉宿に送られます。ちょっとここ、みていただけますか?」

「これは、塩分の結晶です。夜に雨が降って1度流れているので、朝から6時間くらいでできたやつでしょうか。金泉は地殻変動で沈み込んだ海洋プレートと一緒に引き込まれた600万年前の海水が、地下60キロメートルのマントルの熱で温められて噴出したと考えられています」
金泉のお湯は600万年前の海水なんですか!
「はい、それがマントルで熱せられた段階で、鉄分や炭酸ガスを取り込んだと考えられています。塩分もふつうの海水の1.3倍ほど。豊富な成分がパイプ内で結晶化して詰まってしまうため、源泉は1週間に1回パイプの交換をしています」
こんなに勢いよく噴き出していて、パイプ交換も大変そうですね。
「この高温ですから危険を伴います。でもこの源泉が有馬温泉の生命線ですから、誇りを持って取り組んでいます」
火傷のあとは勲章みたいなものですよ、と笑って話してくれました。有馬のお湯が熱いのは、源泉の温度だけではなさそうです。
創業700年のホテルで湯巡りできる「兵衛 向陽閣」
有馬温泉の立ち寄り湯は、金の湯、銀の湯とあとひとつしかありません。湯治体験をするならば、どこかに宿泊して、宿のお湯を楽しむのがいいでしょう。
創業700年、有馬温泉ファンだった時の天下人太閤・豊臣秀吉から「兵衛」と名付けられた湯治宿が、いまも大型ホテルとして営業しています。

「兵衛 向陽閣」には3つの大浴場があり、それぞれ金泉が楽しめます。趣向を凝らした透明色のジャグジーなどは銀泉ではなく沸かし湯だそう。

温泉宿にやって来たら、チェックインの後にまず1回、食事の前に1回、起床してすぐの最低3回は入浴したいので、大浴場が3つもあるのは通いがいがあります。(貸切露天風呂もあり)

今回はお部屋食プランで宿泊。お食事はお部屋に運ばれてくるため、プライベートな空間でリラックスできます。
地元野菜を活かした先付けに、お刺身、神戸牛、お出汁に浮かぶ鱧……次々と運ばれる料理に箸が止まりません。ぽかぽかに温まった身体に、兵庫の地酒が染みます。
翌日、大浴場の開場時間に合わせて起床し、金泉の贅沢な朝湯をいただきました。かつて、有馬温泉へ湯治に来ていた客たちは帰る頃には元気になって、杖を捨てて帰ったといいます。
また、秀吉は人生の節目ごとに湯治に訪れていたとか。それが、なんだか少し分かる気がしました。奇跡のような濃い湯質と、それを守るみなさんの熱い気持ちが、これからわたしの心の支えになりそうです。