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2023.08.18

ちょっとディープな神戸を味わう! 神戸の「レトロ喫茶」めぐり

ちょっとディープな神戸を味わう! 神戸の「レトロ喫茶」めぐり

今、若い人たちのあいだで「レトロ」ブームが広がるなか、昭和レトロな喫茶店にはかつての昭和世代以上に、20代の来店が増え「新たな人気」を集めています。

全国各地では、時代の移り変わりとともに閉業していった喫茶店も多いものの、神戸をはじめとした関西圏では今も昭和レトロな喫茶店が現役で多く残っており、「レトロ喫茶めぐり」をする人もいるそうです。

特に、国内でいち早くコーヒー販売を始めた元町や下町情緒あふれる新開地では、商店街に喫茶店が多く点在。

ドアを開けてみると、ほっこりするような懐かしさとそれぞれにお店の個性、味わい深さが感じられます。ちょっとディープな神戸も楽しめる、レトロ喫茶に行ってみませんか?

【取材・文】梅澤杏祐実
京都市生まれ、福井市出身のライター。福井の新聞記者、遺跡発掘調査などの埋蔵文化財の仕事を経てフリーに。福井県小浜市から京都・出町柳までの鯖街道76kmを2回踏破するほど歩くことと登山が大好き。企業・経営者の取材やインタビュー、グルメの記事などを手掛ける。関西好きが高じて、福井と京都の二拠点生活をしている。

「古き良き喫茶文化」を現代に残す「喫茶ポエム」

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元町駅西口を出て約3分。飲食店が並ぶ「元町北通り」を西に向かってしばらく歩くと、元町商店街との間の小さな通りに喫茶ポエムがあります。

どこか懐かしい雰囲気の喫茶店ですが、中に入ってみると、棚に積まれた何百冊という漫画やレジの前に置かれたグッズなど、どこか若者っぽいサブカル感も漂います。

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ドアを開けて、カランコロンという音とともに迎えてくれたのは、昔から続けてきた喫茶店のおじいちゃん、おばあちゃんではなく、30~40代のスタッフでした。

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サイフォンコーヒーを入れる店主の山﨑俊一さん。

店主は、山﨑俊一さん。2012年に閉業したこちらのお店を引き継ぎ、店名も看板もそのまま、内装やイス、テーブルなどをそのまま生かしてオープンしました。

喫茶ポエムは1969年に先代が創業し、閉店から1年もたたないうちに山﨑さんが見つけたことで、2代目ポエムが誕生したのです。

喫茶店を引き継いだ経緯について、山﨑さんはこう話します。

「60年代、70年代の喫茶店が好きなんです。ティーカップや内装など今にはないおしゃれなものがたくさんあるじゃないですか?子どものころからモーニングなどに親が連れて行ってくれたことで親しんできて、中2のころにはいつか喫茶店をやりたいと決めていました」

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店内では60~70年代の食器が使われている

店内には、山﨑さんの「好き」がたくさん詰まっていて「好きなものに囲まれながら仕事ができるのはすごく幸せです」と話します。

「この壁の装飾、機能性はほとんどないのですが、その分すごく味わいがあるじゃないですか?あと、このテーブル1本脚で立っていて、奥の壁にL字金具でつなげ、支えているんです」

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1本脚で立つテーブル

なるほど、そう言われてみると、喫茶店にありがちな足を延ばした時にテーブルの脚にぶつかるということがありません。壁には天然の木材が使われていて、ぬくもりを感じます。

「この壁もね、もともと白かったと思うのですけど、たばこのヤニで黄色くなってそれもまた味わいがあるんです。このたいまつのような照明も素敵ですよね。自分でそろえたものじゃないからこそ、なんかいいんですよね、飽きなくて。10年以上ここにいても何かしら発見があって面白いんです」

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「じゃあお客さんもきっとくつろいでいかれるんじゃないですか?」と聞くと「はい。タバコを吸われる方が休みに来られたり、ほぼ毎日来られる方もいたり、先代からの常連客も多くって、皆さんゆっくりしていってくれますね」と山﨑さん。

オープンから1年目、2年目はほぼ一人で運営してきて、それから少しずつスタッフが増え、現在は月見店も合わせて8人でお店を支えています。

ポエムのほか神戸市内で計3店舗の喫茶店を経営する山﨑さんは、喫茶店が好きで残していきたいという想いはもちろん、お店が老朽化しているため、「1つがだめになってもほかのお店でやれるように」と、閉業したお店を引き継いできました。

スタッフも元は喫茶ポエムの常連客で、山﨑さんと同じく喫茶店好き。常連客にも喫茶店ファンが多いとか。

こうした「喫茶店愛」から、山﨑さんたちは閉業したお店で捨てられてしまう食器や家具などを引き継ぐ活動もしています。神戸や大阪など近隣地域でたたんでしまったお店のイスやテーブル、棚、食器などを現地に行って引き受け、店内で活用しています。

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右側のイスやテーブルはもともとあったものだが、左側のイスなどは閉業した喫茶店から受け継いだ。

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プリン250円。古い喫茶店から引き継いだねじりスプーンと銀皿を大切にしつつ、ココット皿でプリンを受けて、金属同士の接触音がないよう細かな配慮もされているのがポエム流。

今でこそ「レトロ喫茶ブーム」真っ只中、Instagram経由での来店客も多いようですが、11年前の開業時は「喫茶店は衰退していくなかにあった」そう。「この辺は今ほど人の出入りも多くなく、喫茶店をやろうとしているのは僕だけだったからこそ、逆にチャンスだと思いました」と話します。

メニューは新たに作って、ナポリタンなどの食事メニューを増やし、コーヒーを自家焙煎にすることで差別化を図りました。先代のオーナー・常連客からも温かく受け入れられ、少しずつ来店客を増えていきました。

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「鉄板ナポリタンドリンクセット」1200円(平日11~15時は1000円)。ナポリタン単品は850円。店内のメニューはほぼすべてが手作り

山﨑さんはこれまで喫茶店やカフェ、雑貨店などで働いてきた経験を生かしながら、毎年新しいことに挑戦しています。メニューを増やすなど少しずつ積み重ね、若い人からお年寄りに愛される人気店となっていったのです。

今では満席となることも多く、お店の外で並びながらも足しげく通う人もいるそうです。

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ポエムファンの常連客が描いたモーニングなどのメニュー

山﨑さん自身が喫茶店への「好き」を大切にしてきたことで、想いがつながり、常連客が増え、スタッフが少しずつ増えて一緒にお店を支えています。

「やっぱり人とのつながりを大事にしていきたいんです。お客さんとはもちろん、喫茶店も好きだからこそ、同業のお店とのつながりも大切にしています。先代が43年間経営してきたというのもあって、僕もそのくらいお店を続けていきたいと思っています」と山﨑さんは話します。

失われつつある喫茶文化を、ステッカーなどの形にしてオリジナルグッズとして販売したり、閉業したお店のテーブルやイスを受け継いだりするなどさまざまな形で活用している喫茶ポエム。店内には、その古き良き懐かしさと、それを敬愛し、つなげていく新しい時代の感性との両方がともに感じられます。

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昔ながらの道具に貼られたポエムのオリジナルステッカー

喫茶店が大好きだからこそ、他店にも通うという山﨑さんに、おすすめの喫茶店を聞いてみると「『喫茶蛙や木琴』さんです。カエルがいっぱいの個性あふれるお店です。ぜひ行ってみてください」と話していました。

喫茶ポエムからもほど近く。地下鉄「みなと元町」駅の近くにあります。来店の際は、SNSなどをご確認ください。

Information喫茶ポエム
住所 神戸市中央区元町通3-11−15
アクセス JR・阪神・高速神戸各線の元町駅から徒歩3分
電話番号 078-958-5892
営業時間 火曜~金曜10:00~20:00、土日8:00~20:00 ※コロナの影響により営業時間の変更の可能性があります。SNSなどをご確認ください。
定休日 月曜
公式サイト https://kissapoem.com/

紅茶本来の味わいと香りを楽しめる!レトロで新しい元町の「みつまた喫茶店」

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昭和レトロな喫茶店が神戸で今も多く残る一方、レトロな純喫茶を現代に表現した「ネオ喫茶」も全国的にブームとなり、若い人たちを中心に人気を集めています。

元町駅を出て3分ほどの場所にあるストレート紅茶の専門店「みつまた喫茶店」も、そんな新しさとレトロ感がミックスされた空間です。

お店が入るビルの階段を4階まで上って入ると、パステルカラーのかわいらしいデザインが迎えてくれます。

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え?何なに?テーブルに置かれた「紅茶嫌いの方、大歓迎!」の文字が。

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若い女性スタッフが席に来て「当店は紅茶専門のお店となりますが、よろしかったでしょうか?」と確認してくれます。

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ただし、どれを選んだらいいかわかりません。

「どれを頼んだらいいですか?あまり紅茶に詳しくなくって…」と言うと、初心者におすすめなのが「キームン」だということです。

「キームンは、ウバ、ダージリンと並んで“紅茶の三大茶葉”と言われています。ただ、キームンをおいしく淹れるのはなかなか難しいので、お店で飲むのがおすすめです」とのことで、キームンにしました。

ティーカップは好きなものを選ぶことができます。

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お茶の味わいや香りを少しずつ楽しめるという小さめのカップを選びました。

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キームンみつまたスタンダード800円(ポットでの提供)

旅先の温かいお茶は、何よりも心と身体を癒してくれます。熱すぎず、ぬるくもない、ほどよい温度の紅茶はのどを潤し、身体を少しずつ温めてくれます。口に入れると、スーッとほんのり甘い香りが鼻の奥に広がります。

「当店では紅茶本来の甘みと香りを引き出す抽出方法で、研修を受けたスタッフが心を込めて一杯ずつ淹れています。キームンには甘いお花のような香りがするんです。まろやかなコクと渋みの少なさが特徴です」とマスターの松村康一さん。

同店の看板メニュー「みつまたプリン」は、紅茶と一緒に味わいたい人気メニューです。

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左から「紫芋プリン」450円、「蜂蜜ミルクプリン」450円、「フローズンチーズケーキ」480円。3つ注文で、50円引。

銀色の燭台の上に、プリンが3つ。何とも豪華な気分になります。常時8~9種ほどあるプリンのメニューから好きなものを3つ頼むと、このように提供してくれます。

プリンを食べながら紅茶を飲むと、プリンの甘みが紅茶の味わいにさらに深みとコクを感じさせます。

プリンは固め。昔ながらの喫茶店のようでいて、味わいは紫芋やチーズなど、新感覚です。

「神戸ってなんか洋菓子がおいしそうなイメージがあるでしょう?だからこそ観光客の方にも自慢できるものを目指して作ったのがこのプリンです」と話す松村さん。

強いこだわりを感じますが、一番の目的は「若い人たちにおいしい紅茶を知ってもらうこと。プリンはそのきっかけの一つなんです」と言います。

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紅茶のおいしさを知ってもらおうとおいしい紅茶の淹れ方を松村さんが研究してまとめた『実践紅茶研究』

松村さんが20代のころにおいしい紅茶のお店と出会ったことが始まりでした。そのお店は、のちに師匠となる渡邉一典さんが運営する神戸市内にある「紅茶専門店ARIEL(アリエル)」。

アリエルで出される紅茶のおいしさに惹かれて何度も通うようになり、松村さん自身も紅茶のおいしさを追求し続け、ついに2021年6月にお店をオープンしました。

ただ、松村さんのそれまでの経歴は飲食店というよりは、ペットショップなどで異業種からの開業でした。

新たな挑戦に踏み切ったのは「おいしい紅茶を求めて国内外を回り、実際に飲んでみて、本当においしい紅茶は多くはなくて。しかも、ミルクティーやフレーバーティーなどで紅茶本来の味わいをしっかり楽しめるお店がない…。ならば、自分でやるしかない!と覚悟を決めました」とその経緯を話します。

紅茶のお店をやるにあたって、注目したのが若い世代でした。「若い人たちはストレートで飲む紅茶のおいしさをあまり知らない。実際うちのお店のスタッフもみんな紅茶嫌いだったんです」と言います。

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「ティーマスター」として紅茶について来店客に解説するスタッフ

開店から1年半がたつなか、店内に置かれた来店客が自由に書けるノートには、「横浜から親友と来ました」「また自分のご褒美にきます」など全国各地から来た若い人たちの感想が思い思いにつづられています。

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今後の展開についてうかがうと「今はひたすら“紅茶の伝道師”として紅茶のおいしさを若い人に伝えていきたいです。いつか、若い人のなかから僕よりももっと紅茶のレベルが高い人が出てきて、いい意味での“道場破り”をしてくれることが当面の目標です」と話していました。

ストレートティーの味わいと香りがしっかり感じられるみつまた喫茶店で、旅先の心と身体をほっこり癒してくれる一杯を味わってみてはいかがでしょうか?

Informationみつまた喫茶店
住所 神戸市中央区元町通1丁目11−5 三ツ星ビル 4
アクセス JR元町駅から徒歩2分
営業時間 11:00~22:00
定休日 不定休(instagramで確認)
公式サイト(SNS) https://www.instagram.com/mitsumata.kissaten/

戦後創業!震災を乗り越え、みんなでつくる憩いの場、純喫茶「エデン」

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店内に一歩足を踏み入れると、キシキシと床の音がします。常連客によると「この音がいいんだよ」とか。

「おしゃれな神戸」とは打って変わって下町情緒あふれる新開地に、「最古の純喫茶」と言われるお店があります。

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新開地駅を出てすぐにある「エデン」は、1948(昭和23)年に創業、阪神・淡路大震災も乗り越えてきました。戦後、震災とさまざまな時の流れを刻んできたエデンには、若い人からお年寄りまでさまざまな人を受け入れる懐の深さがあります。

現在の店主である堺井太郎さんの父が創業。太郎さんは16歳の時にお店の手伝いを始め、半世紀以上、このお店に立っています。

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店主の堺井太郎さん

関西の下町らしい人懐こい笑顔と軽妙なトークで、どんなことも笑い飛ばしてしまう人柄が世代を問わず、温かく受け入れてくれます。

コーヒー一筋。「食事はほかにもおいしいお店があるから、サンドイッチとかは出すけど、あくまでコーヒーメインやねん」と太郎さんは言い切ります。長年お店を切り盛りするなか、コーヒー豆を販売する会社で学んだ品質管理をもとに、安定した味わいのコーヒーを提供しています。

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深みのある味わいの「ホットコーヒー」400円

人気は、モーニング(10:00~12:00)で提供している「ハーフミックスサンドセット」です。

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ハーフミックスサンドセット

エデンの魅力は、イスやテーブルの美しい船舶家具の調度品はもちろん、長年かけてつくられた味わい深さですが、それは一言では言い表せません。これは、創業者だけでも現在の店主だけでも、来店客だけでもつくることができない、あらゆる年月やさまざまな人を通してつくられてきたものです。

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店内では若い世代からお年寄りまで老若男女問わず、楽しそうに談笑しています。開店から閉店時までほぼ席が埋まり、人気のお店となっています。

「エデンはおれだけがやってるんじゃないねん。例えば、この人は80歳を過ぎてもずっと通ってきてくれてな、何かと手伝ってくれるんや」

お店のスタッフ以外にもお店を支えている人が何人もいます。

「この人はメニューを書いてくれてな。基本は一人でお店をやっているからな、手が回らんけど、こうして作ってくれてん。みんなでエデンやねん」と太郎さん。

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店名の由来は、旧約聖書のアダムとイブが追放された楽園から。「戦後はもう、欧米の文化が入ってくると思っていたからあえてこういう名前にしたんや」と太郎さん。

お店が閉まる時間になっても、次々と常連客が集まってきて、犬までもが席に座っています。「帰れ言うとんのに、ずっとおるんや」と強い口調ながらも、太郎さんは優しく迎え入れます。

「私はまだ通い始めて4年なの」という常連さん。「私は父からずっと。私自身はまだ15年やけど。こうして集まれる場所があるっていいよね」と楽しそうに話しています。

お店と客の垣根を越えてこの場所が受け継がれ、世代を問わずみんなで憩いの場所をつくっているようすはまさに楽園(エデン)のよう。

常連客の一人に聞いてみました。エデン以外にもおすすめのレトロ喫茶は?

「新開地から湊川駅にかけての間にある『アキラ』とあと、湊川駅の近く『ミナエンタウン』にある『光線』かな。またエデンにも来てくださいね」と笑顔で答えてくれました。

ちょっとディープな神戸を楽しめるレトロ喫茶で、ぜひあなただけのお店を見つけてみてください。

Informationエデン
住所 神戸市兵庫区湊町4-2-13
アクセス 阪神・阪急・神戸電鉄「新開地駅」から徒歩1分
電話番号 078-575-2951
営業時間 10:00~17:00
定休日 年末年始
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