2021.03.26
- グルメ
“全国一の紅茶好きの街” 神戸で、多彩な紅茶の楽しみ方を発見!
国際港としていち早く海外に開かれて以来、洋風の文化に親しんできた神戸。洋食やパン、スイーツなど、舶来の食文化も先駆けて日常に浸透していきました。
なかでも、神戸っ子の食生活に深く根付いているのが、紅茶です。明治時代から輸入が始まって以来、日本の紅茶の普及に大きく貢献した神戸は、統計的に見ても”全国一の紅茶好きの街”。その歴史を遡りながら、神戸発の個性的な専門店と紅茶の楽しみ方をご紹介します。
- 英国流の喫茶文化が浸透した”全国一の紅茶好きの街”
- 現役最古の紅茶製造・販売メーカー「神戸紅茶」
- 紅茶ファンを広げる専門店のパイオニア「ティールーム マヒシャ」
- 教室を通して全国に紅茶の楽しみを発信「紅茶専門店Lakshimi」
英国流の喫茶文化が浸透した”全国一の紅茶好きの街”
1868年の開港以来、神戸にもたらされた舶来の品の一つに、紅茶があります。当時の神戸では、様々な国の貿易商が居留地に商館を開き、とりわけイギリスとの貿易が最も盛んでした。六甲山を開拓したイギリス人、アーサー・ヘスケス・グルームもその一人で、日本茶や生糸を輸出する一方で、日本に紅茶などを輸入していたそうです。
それだけに、紅茶は原産地からではなく、ヨーロッパの喫茶文化と共に神戸に伝わり、当時の上流社会でもてはやされたといいます。濃く淹れた紅茶にミルクを合わせるイングリッシュ・ブレックファストやアフタヌーンティーなど、家庭で1日に何杯も嗜む英国流のスタイルが浸透。早くから洋風の文化に親しんできただけに輸入品を扱う店も多く、菓子やパンなど洋風の食が身近に広まったことで、神戸に紅茶を楽しむ日常が広まっていきました。
神戸と紅茶との深い関わりは、今に至るまで受け継がれ、統計的に見ても紅茶を購入する量・金額ともに長らく全国トップクラス。総務省家計調査(2013~15年)によれば、一世帯の年間消費額1545円は、全国平均767円の2倍以上。また、消費量は387gで全国2位(全国平均212g)ですが、それより以前は、40年以上にわたって首位の座をキープし続けました。まさに、”全国一の紅茶好きの街”であり、ハイカラな街ならではの記録です。
現役最古の紅茶製造・販売メーカー「神戸紅茶」
神戸には、家庭への紅茶の普及とともに、紅茶の製造・販売を手掛ける会社も、全国に先駆けて現れました。それが1925(大正14)年に創業した「須藤信治商店」。現在の「神戸紅茶」の前身です。
農学校出身の須藤信治氏が紅茶の卸専門会社として創業し、戦後は、紅茶の本場イギリスの世界的メーカー「リプトン」から日本初の生産工場の指定を受けます。そして、紅茶の製造を手掛け始めた1961年(昭和36年)に、日本で初めてティーバッグの自動包装機械「コンスタンタマシン」を導入。長年にわたり、神戸から日本の紅茶文化を牽引してきたパイオニアです。
ティーバッグの製造だけでなく、日本の特有の軟水に合わせたオリジナルブレンドの開発にも試行錯誤を重ね、今も世界160か所の産地から届く旬のリーフを専属の鑑定士がテイスティング。時季ごとに異なる作柄、異なる茶園のリーフから”旬”のリーフを選り抜く、プロの味覚と経験によって、常に変わらないクオリティを保っています。
平成以降は自社ブランドを打ち出して、小売りもスタート。早くから家庭に紅茶が浸透した神戸では、日頃から飲み慣れたお客が多く、450gの最大容量の缶入り(現在は終売)や1kg単位でのリーフの注文は、ほぼ市内や兵庫県内のお客が占めるそうです。
リーフの好みも、ストレートでも楽しめるダージリンのブレンドが全国区の人気を得ているのに対し、神戸ではミルクに負けない濃厚な味わいのアッサムとケニアのブレンド「イングリッシュ・ブレックファスト」が不動のロングセラーだとか。開港以来、親しんできた英国流のスタイルは、今も神戸っ子の定番です。
近年は商品ラインナップやパッケージも一新し、鑑定士がブレンドしたセレクションリーフや、オーガニック&フェアトレードなど新たな提案も続々登場しています。
中でも、高密閉フィルムと脱酸素剤を組合せ、開封時のフレッシュな香りを封じ込めた「生(き)紅茶」のアソートボックスは、人気インスタグラム@kobecco-channelの「第1回 Kobecco AWARD 2020」で、神戸大好き女子100人が選ぶ「神戸のお土産」の初代グランプリを獲得。新神戸駅や神戸空港でも販売され、神戸土産の新定番に。長年、神戸から紅茶文化を発信してきた老舗の新たな試みに注目です。
神戸紅茶
☎:0120-888-103(9:00〜17:00)
定休日:土・日曜
紅茶ファンを広げる専門店のパイオニア「ティールーム マヒシャ」
抽出器具の扱いが難しいことから、街で飲まれることがほとんどだったコーヒーと比べて、家庭の飲み物として神戸に定着した紅茶。長らく、紅茶=イギリスというイメージでしたが、80年代以降、何度かの紅茶ブームを経て、街で紅茶を楽しむ場も広がりを見せ、専門店も増え始めました。
その先駆けといえるのが、1987年(昭和62年)にオープンした「ティールーム マヒシャ」です。当初から、深く、濃く入れた紅茶に、たっぷりとミルクを入れて味わうスタイルを打ち出しつつ、多彩なリーフの特徴に合った淹れ方を提案。
「年々、茶葉の質も上がって、銘柄の個性も出しやすくなったので、お店でも好みの茶葉を探して色んな銘柄を試されるお客さんが多いですね」とは、店主の松浦将年さん。かつて家庭で紅茶に親しんだ世代に代わって、若い世代が街でも紅茶を楽しむようになり、女性が中心だった客層も最近では男性のファンが増えているそう。
茶葉、産地、農園まで分けて提案するリーフは、飲んだ時に味わいの個性がはっきりと異なる銘柄をセレクト。ミルクティとストレートで各7~8種のリーフが揃い、時季ごとに旬の産地の銘柄や希少な銘柄が登場することも。さらに、ミルクティーは、通常の2倍以上のリーフを贅沢に使って、たっぷりのミルクで濃厚な紅茶の味わいを引き出すのがマヒシャ流。
最も発酵の深い「ルフナ・ストロング」(700円・税込)は、まろやかな味わいの厚みとコクが凝縮した、どっしりとした飲みごたえに目を見張ります。「いかに茶葉の持つ味を全部出し切って、飲んでいただけるか。味の幅がかなり広がっているので、それをどう伝えるかを考えています」と松浦さん。幅広い淹れ方やスタイルの選択肢を提案することで、紅茶好きの裾野を広げる、新しい楽しみ方が詰まった一軒です。
ティールーム マヒシャ
住所:神戸市中央区下山手通2-1−12 エイコービルB1
☎078-333-7451
営業時間:13:00〜23:00
定休日:不定休
教室を通して全国に紅茶の楽しみを発信「紅茶専門店
Lakshimi
」
さらに、紅茶を「飲む」だけでなく、もっと深く「学べる」場として、2004年(平成16年)にオープンしたのが「紅茶専門店Lakshimi」。生粋の神戸っ子である、オーナーの戸田容幸(ようこ)さんは、お父さんが紅茶好きだった影響で、子供の頃から家庭で紅茶に親しんできました。
元々はインテリアコーディネートの講師を務めていましたが、講義の際に淹れていた紅茶が評判に。まだ専門の教室などなかった時代、自宅で始めた紅茶教室が、開店に至るきっかけでした。
現在、教室では基本的な淹れ方やテイスティングのコースから、独自の「紅茶ソムリエ」資格を目指すコースまでありますが、「紅茶は自由に楽しんでいいんだ、というのを伝えたい。せっかく紅茶を飲むなら、リラックスして飲んでほしいですから」という肩肘張らないスタンスがモットー。
最近では、紅茶が持つ美容や健康への効果も注目され、教室を訪れるのは女性を中心に学生から80代まで幅広く、中には北海道や九州から通う人や、地元で開業する人も少なくありません。
また、ショップでは、産地を訪ねて直輸入するリーフを販売。「基本は新鮮な旬の紅茶を選んでいます」と、世界中の産地で収穫時季が異なる紅茶は、その季節ごとの味を追っていくのも楽しみの一つです。また、ドイツの老舗紅茶メーカー「ロンネフェルト」の神戸唯一の認定店でもあり、世界中の星付きホテルでも提供される多彩な紅茶が揃うのも魅力です。
さらに、天然のライチ、ローズエッセンスを配合した一番人気のブレンド「楊貴妃の夢」や、スペイン産の上質なはちみつパウダーを使用した「極上はちみつ紅茶」など個性的なオリジナルも充実。併設のティールームでは、人気の3段スタンドのアフタヌーンティーセットをはじめ、自家製スイーツと共に多彩な紅茶を楽しめます。
今年4月には、店舗を拡張し、大幅にリニューアル予定。「紅茶の街・神戸らしい店として、身近に立ち寄れる”紅茶のミュージアム”のような場所にできれば」という戸田さん。神戸から紅茶の魅力を発信する、新たなシンボルになりそうな一軒です。
紅茶専門店 Lakshimi
住所:神戸市中央区中山手通2-4-8
☎078-391-8841
営業時間:11:00〜19:00
定休日:水曜
全国に先駆けて始まった紅茶の製造メーカーから、多彩な味わいや楽しみ方を提案する専門店まで、街の日常に溶け込んでいる紅茶。舶来の食文化として始まって、街の人々に欠かせない存在となった今も、紅茶の街・神戸は新たな紅茶の魅力を発信し続けています。
神戸の編集プロダクションを経て、フリーランスの編集・文筆・校正業。関西の食を中心に情報誌などの企画・編集を手掛ける。また、学生時代からのコーヒー好きが高じて、01年から珈琲と喫茶にまつわる小冊子『甘苦一滴』を独自に発行するなど専門分野を開拓。全国各地で訪れた店は約1000軒超。2013年より、神戸市の街歩きツアー「おとな旅・神戸」でも案内人を務め、2017年には、『神戸とコーヒー 港からはじまる物語』(神戸新聞総合出版センター)の制作を全面担当。