2021.03.26
- グルメ
神戸を代表するベーカリー「フロイン堂」の愛されるパンを求めて…


神戸市東灘区、阪急岡本駅から西へ歩いて1分足らずのところ。ノスタルジックな一軒家が「フロイン堂」です。石畳の通りにある佇まいは、静かな雰囲気。でもここは圧倒的な人気を誇る食パンの名店です。
パン屋激戦区と呼ばれる街で、周りや流行にながされることなく独自のパン製法を貫き、絶大な人気を集めています。戦争も震災も潜りぬけてきたレンガ窯で焼くそのパンを目指して、遠くからもお客様が足を運んでいます。

創業88年の老舗ベーカリー
初代が「フロインドリーブ」で修行
創業したのは88年前、現在の店主竹内善之さんのお父さんが創業したベーカリー「フロイン堂」は、初代店主の従姉妹であるヨネさんが、「フロインドリーブ」の店主ハリー・フロインドリーブさんと結婚されたご縁が始まりだそう。
初代が「フロンドリーブ」で修行、ドイツ人ハリーさんに弟子入りしパン作りを学び、その後「フロインドリーブ2号店」を岡本に構えたことが「フロイン堂」のはじまり。第二次世界大戦がきっかけで、店は「フロイン堂」という店名で再スタートしました。現在は2代目目である竹内善之さんが息子の隆さんと一緒に店を切り盛りしています。

おいしさの秘密は”全身を使う”手捏ね作業!
さて、朝9時オープンのお店を訪ねてみると、「フロイン堂」は意外にひっそりとしています。ショーケースに並んでいるのは、ビスケットとバターケーキが少し。伺うとこのビスケットとバターケーキも前日に売り切れてしまい、並んでいない日もあるのだとか。
オープン間もない時間帯は静かな「フロイン堂」ですが、店の奥、半地階にある厨房では午前7時頃から生地の仕込みが始まっています。そこでは、2代目竹内善之さんと3代目隆さんが、大人1人が入りそうな大きな桶に入ったパン生地を全身を使いながら手で捏ねる作業が繰り広げられ…。
このようにパン作りが始まり、まず最初に出来上がってくるのは、「あんドーナツ」。食パンと同じ生地に粒あんを包んだら、しらしめ油でカラリと揚げてシナモンシュガーをまぶしたあんドーナツはロングセラーの人気商品。引きのある生地と上品な甘みの粒あんのファンは多いそうです。

続いて出来上がるのは「カレーパン」。こちらは数年前からスタートした比較的新しい商品。「昔は自家製ルウで作っていたんですよ。現在は大阪のインド人ナビンさんから、店の味に合わせたルウを仕入れています」と竹内さん。コクのある辛さが病みつきになりそうな一品です。

その次に出来るのは「ぶどうドーナツ」。卵も使用した菓子パン生地をドーナツ型に成形して揚げたら、こちらもシナモンシュガーをまぶして…。大人にも子どもにも大人気のドーナツ、まとめ買いのお客様も多いおやつに欠かせないアイテムです。

この3品が午前10時~11時くらいに並んだら、店内はシナモンの香りがふわり!
オープンと同時に鳴り響く、予約電話のコール音
1時間ほどで予約完売することも!
シナモンシュガーのいい匂いに包まれているしあわせ気分の店内ですが、実は店内はまた別の音で賑やかな日も。それは朝開店と同時に鳴り始める、電話のコール音。看板商品の食パンをはじめとするパンの予約のための、お客様からの電話です。
「フロイン堂」の予約システムは、当日分のパン(とお菓子)の予約は、当日のみの受付け。電話かご来店での予約となります。ゆえに、「フロイン堂」の朝、開店の9時になると店の電話は鳴りっぱなし。
毎日午後2時、午後4時に焼きあがる食パンの予約を中心に、ライ麦パン、田舎パン、カンパーニュやバゲットなどすべてのパンの予約が可能です。店内にあるホワイトボードには、予約した人の名前やパンの数がずらり。週末や繁忙期には、午前中の1時間ほどで、予約で完売してしまうこともあるそうです。
さて、そんな店の人気の秘密は今では珍しいドイツ由来の一層式レンガ窯。戦災も震災も免れた運の強い年代ものの窯、「戦時中はね、窯の中に貴重品を入れて守ったりね(笑)」と竹内さん。当時は薪をくべて窯を温めていたそうですが、手に入りにくくなった今はガスの力を借りて…。
「朝一番にまず窯に火入れをしてレンガを温めて、その熱でパンを焼いていきます。レンガに保たれた熱がじんわりとパン生地を焼き上げてくれるんです」。この窯で焼くからこそ、唯一無二のパンが焼きあがるのです。

レンガ窯も年代物ですが、手捏ねのための桶、作業台、ホイロといった道具のほとんどが創業当初からずっとずっと使われているもの。時代を経た道具たちが語りかけて来るような厨房は、パンを作るための空気が育っている空間のようです。
「当時は手捏ねは当たり前でしたしね。捏ねる時、手の平に感じる生地の触感で店の味を作っているんです。天気によっても水の分量を微調整したり…。触感や経験でパンを焼く、仕事に手心を加えるって言うんでしょうかね。それが楽しいんですよ。あと、食パンを入れるケースは特別に作ってもらったものなんです。ずっと使っている道具、愛着もありますね」と竹内さん。
食パンのための小麦粉は1日約35キロ。そこに水も加わって、相当な重量の生地を手で捏ねていきます。大人が1人入るくらいの大きな桶の中で捏ねていく作業は、いちばんの重労働。「手捏ね」と表現されてはいますが、もう体全体を使って捏ねているような、大変な作業です。
パンの種類は、12種類。
朝から順番に焼き上がります。
さて、午前11時半、次に焼きあがってくるのは、「ベーコンエピ」、「くるみパン」、「田舎パン」、「ライ麦パン」、「バゲット」、「カンパーニュ」といったハード系が中心。これらの多くは3代目隆さんが考案したもの。
食パン生地を派生させた「ベーコンエピ」は生地にベーコンと黒胡椒を入れて麦の穂の形に成形したもの、「くるみパン」は食パン生地にたっぷりのくるみを混ぜ込んで…。「田舎パン」は、ライ麦を10%配合した生地にクルミとレーズンがぎっしり入ったずっしりパン。天然酵母で作る「バゲット」や「カンパーニュ」は、生地のおいしさを存分に噛み締めたい味わい深さで人気です。




続いて、外国人のお客様にも絶大な人気を誇るのがライ麦100%の「ライ麦パン」とクルミ&ラム酒漬けのレーズン入りのライ麦にゴマのまぶされた「フロッケンセザム」も焼き上がり、これらすべてがずらりと並んだら午前のパンが勢揃い。

食パンは午後1時すぎに、レンガ窯の中へ。

午前のパンが焼きあがった後は、いよいよ食パンです。発酵させた食パン生地をホイロから出したら静かに窯の前に並べていきます。生地にダメージを与えないように静かに運び、順番に窯の中に並べていきます。
窯の中に入れたら約40~50分、じっくりと生地に火を通しパンを焼き上げていきます。「遠赤外線効果で中までじんわり火が通るんです」と竹内さん
。

食パンの焼き上がりは、午後2時と4時の1日2回
午後2時前になると、1回目の食パンが焼き上がります(食パンが焼かれるのは、1日1回午後2時のみの日もあります)。窯から出てきた食パンは、型から取り出し、山の部分にバターを塗ったら、厨房から店の棚へ。
「今日の食パンはいい食パンですよ」と竹内さん。その言葉を聞くと、フロイン堂の食パンは昨日よりも今日がよりおいしくなっている、と確信!そして、明日はもっとおいしくなっている!と期待に胸が膨らみます。



焼きあがった食パンをどんどん棚に並べたら、予約分、1本は白い薄紙に包んでいきます。また半分サイズ、ひと山の3分の1サイズもカットして白い紙袋へ。包んでいるそばから、お客様がやってきて食パンを購入。
焼きたてを!というお客様は午後2時頃(もしくは2回目の午後4時頃)に訪れたら、焼きたてのアツアツを買うことができますよ!


こんがりきつね色に焼きあがった食パンは、頭の部分にバターを塗られ、パチパチとおいしそうな音を立てて佇んでいます。この音は、パンがしっかりと窯伸びした証。
小麦粉、塩、砂糖と少量のイーストのみの余分な素材を使っていないシンプルな食パンはサクッと軽く、小麦の香りがふわり。
素朴な味わいの生地は毎日食べても飽きることがなく、この味と食感を求めて、毎日あるいは週に数回通うおなじみのお客様が多いのもうなずけます。
ぶどうパンはふんわり食感。
1回目の食パンと2回目の食パンの間に焼かれるのが「ぶどうパン」。タマゴ、砂糖も入った甘い生地に干しぶどうも混ぜ込まれたぶどうパンは、かまぼこのようなトユ型と丸い形の2タイプがあります。大と小では食感が違うので、食べ比べて見るのも楽しい!

レンガ窯で焼くお菓子も人気。
レンガ窯ではパンだけなく、ビスケットやバターケーキなどお菓子も焼いています。こちらもまた、香ばしく、ほっこりとしたおいしさ。おやつに手土産に喜ばれています。

予約ができなかった場合も
「食パンあります」札があれば買えます!
どのパンも人気の「フロイン堂」。どうしても買いたい!という場合は、朝9時からの予約をすることをおすすめします。電話予約ができなかった場合は、お店を直接訪ねて「食パンあります」の札があればラッキー! 購入が可能です。
お客様の毎日に寄り添いながらパンを焼き続けている歴史ある「フロイン堂」の食パン、人の心を震わせるものは味わいだけではなく、そのパンと向き合う姿勢であると感じずには入られません。神戸のパン文化の一片を担っている、ロングセラーの食パン、ぜひ一度ご賞味を!

フロイン堂
住所:神戸市東灘区1-11-23
TEL:078-411-6686
営業時間9:00~18:00
定休日:日曜・祝日、第1・3水曜
赤穂生まれ、神戸暮らし。お菓子、パン、雑貨などを中心に雑誌、ガイドブック、ウェブなどで取材執筆。著書に「東京最高のパティスリー」(ぴあ刊)、編集から携わったムック「神戸のおいしいパン屋さん」、「神戸紅茶さんぽ」、「神戸土産の新定番」(共にグラフィス社)など。パンやお菓子の取材活動やスイーツ&パンイベントのディレクションも手がける。