COLUMN

2021.10.19

【神戸で海外旅行】 欧州文化が香る神戸歩きで、「ホンモノ」を知る

【神戸で海外旅行】 欧州文化が香る神戸歩きで、「ホンモノ」を知る
文化は風土から生まれている。なんて思うことがある。
オシャレなカフェやテーマパークで「異国情緒」を演出しているところも大好きだが、余計に彼の地が恋しくなる。写真に撮れば見極めが付かないような差でも、実際にそこへ立ってみるとなにか、雰囲気というか、後ろ盾というかが、足りないと感じるのだ。違いは場所だけ。でも、文化っていうのは風土から立ち上って香るものなのかも、と思う。

初めて神戸を訪れたのは中学校の修学旅行で、なんとなく知った気になっていたが、大人になってから街並みを歩いてみると、印象が刷新された。今日はその中から、「ホンモノ」の欧州文化に触れられるスポットを紹介したい。

コヤナギユウ
デザイナー/エディター
給食のオバサンから書籍出版社で営業職ののち、渋谷やNYの路上で絵を売るイラストレーターへ。現在はグラフィックデザイナーに転身し、旅や体験を楽しく情緒的に表現するライター業も行い、写真も撮る。カナダ観光局オーロラ王国ブロガー観光大使、チェコ親善アンバサダー2018を務め、神社検定3級。
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神戸観光ド定番の北野歩き「異人館」から神戸を望む

代表的な異人館「風見鶏の館」は、とにかく大きい

神戸といえば異人館、と中学生でも即答できるそれがあるのは、なだらかな坂道にある北野という街だ。有名な「風見鶏の館」があるあたりは、観光地然として整えられているが、一本道を逸れれば、普通の民家が並ぶ。おしゃれなカフェやブティックで華やかな店舗、何の変哲もないアパート、そこに突然「異人館」が現れて存在感を放つ。

住宅と異人館が並ぶ北野の街並み。現在も私邸として使われている異人館もあり、すべてが公開されているわけではない

神戸に異国文化が花咲いたのは、外国の暮らしが根付いたからだ。1868年、江戸が東京と名を変えた頃、神戸港開放にともない外国人が暮らす特別地域「居留地」が生まれた。日本家屋を取り壊しヨーロッパの都市計画に沿ったまちづくりが行われたが、すぐいっぱいに。拡張しない居留地の代わりに、北野を含む「雑居地」が生まれた。土地の売買は禁止されていたが、日本人から家屋を買い取れば、それを壊して建て直すことが認められ、日本人と外国人とが暮らしたエリアだ。これは横浜や長崎など他の開港地にはなく、神戸にしかない。

高台にある「うろこの家」から見える、神戸の街並み

主に商業地として栄えた居留地に対し、北野は住宅地として栄えた。見晴らしのいい山手の立地はヨーロッパの小都市そのものだからだ。1887〜1915年頃までに100棟を越える異人館が建てられたが、戦災や都市開発によりその数を減らし、次々にマンションやアパートなどへ建て替えられた。

これにストップをかけたのが建築史学者たちだったという。「生きた建築史」としての存続運動が始まり、1980年には建物のみならず、地区として街並みを保存する「重要伝統的建築物群保存地区」になった。

「うろこの家」の2階客室は、ゴルフ、テニス、スキーなど西洋から初めて日本にやってきた「遊び」が展示されていた

北野の異人館は、神戸に欧米文化が根付いていた確固たる証拠だ。北野の坂にヨーロッパの小土地を重ねて暮らし、日本初のゴルフやトレッキングといった文化を伝えた。そして、忘れてはいけないのは、これを残してくれている人たちがいるということ。欧米人という人の手によって築かれた「ホンモノ」の文化は、現代も地域の人の手で守られている。

最初に一般公開された異人館は「うろこの家」。狭くて急勾配な「オランダ坂」の先にある

INFORMATION 神戸北野異人館街
公式HP https://www.kobeijinkan.com/

欧州人はトレッキングで黙考する「布引の滝トレッキング」

ヨーロッパの街はだいたい似ている。まず川があって、そのまわりが栄え、川を囲む丘がある。丘の上は街を象徴するような小高い山があって、みんなその山に親しみを持っている。
新神戸駅真裏の山を見て、そんな欧州定番の街並みを思い出した。

トレッキング開始15分で到着する「布引の滝(雄滝)」

ハイキングコースが整えられているというので、朝6時頃に歩き始めたら、スーツを着たビジネスマンが降りてきておどろいた。なんでも、神戸では出勤前にちょっとトレッキングしながら考えを整理する、なんてことがあるそうだ。え、それって、ヨーロッパのできるビジネスパーソンとまったく同じ所作じゃないか。聞けば神戸の六甲山系のハイキングコースを整えはじめたのは居留地と雑居地に暮らす欧州人だったそうだ(※)。
なるほど、そりゃ「ホンモノ」だ。
運動が苦手なわたしみたいなタイプでも、出発から15分で「布引の滝(雄滝)」を望むこともできるし、半日かけて六甲山や摩耶山に登頂するコースも整備されているらしい。布引の滝から、さらに少し登った先にある見晴らし展望台から見えた、朝の光に浮かび上がる神戸の街も美しかった。

※引用元:六甲山ビジターセンターサイト

INFORMATION 布引の滝
登山情報 https://www.yamakei-online.com/yk/rokko/course01.php

港町のラビリンス、塩屋の「旧グッゲンハイム邸」

神戸に異国情緒をもたらした居留地も1894年に返還が決定。しかし、その後に洋館が多く建てられたエリアがある。神戸市西部の小さな漁師町、塩屋だ。

急勾配な斜面に家が張り付くように並び、それを小さな路地と階段が網の目のように結ばれさながら迷宮のよう。原付バイクで坂を登るのもちょっと怖いくらい、坂はきつい。歩いて登ると足元以外見ている余裕がなくなるくらいしんどいのだが、坂の上には、海までスコーンと抜けた絶景が待っている。
この美しさに目をつけたのか、洋風建築がたくさん建てられた。現在は6棟の洋館があるそうだ。そのほとんどは住居として使用されているので、旅人が立ち入ることはできない。

全国ニュースに名前が躍った「旧グッゲンハイム邸」

そんな塩屋にあって、象徴的な洋館「旧グッゲンハイム邸」の名前が2020年の夏頃ニュースに踊った。「グッゲンハイム」とは、この屋敷の所有者だったドイツ系アメリカ人に由来していたのだが、実は貿易業に携わったライオンス氏の邸宅だったと判明したのだ。30年以上日本に暮らし、神戸で没した人物だったという。ちなみに、所有者は違ったが、今後も長く親しまれてきた呼称として「旧グッゲンハイム邸」のままにするそう。

観光展示物などがない「旧グッゲンハイム邸」は、より当時の暮らしを偲ばせる。2階の廊下から海を見下ろし、ここに暮らした「ホンモノ」に思いを馳せた。

主に多目的スペースとして貸し出しているが、毎月第3木曜日は解放日として無料見学も行っている開いた洋館だ。そんな経緯も楽しみながら訪れたい。

2階廊下からの眺めは最高だ

INFORMATION 旧グッゲンハイム邸 | 神戸市塩屋の洋館
住所 神戸市垂水区塩屋町3-5-17
TEL 078-220-3924
一般無料開放日 毎月第3木曜日(無料・予約不要)
公式HP http://www.nedogu.com/
※開放時間はHPで確認を

「和」に囲まれて際立つ「洋」。「欧風料理もん」でオムライスをいただく

ヨーロッパを感じる食事として何を紹介するべきか悩んだが、ここは店名に「欧風」を謳っている「欧風料理もん」を思い切って紹介したい。神戸っ子に愛される、老舗の洋食屋だ。看板の「美婦貞奇」は何のことかと思ったら、ビフテキの当て字。扉を開くと薄暗い店内に重厚なカウンターが伸びる。エレベーターで4階に通されると、そこには江戸〜明治時代の看板がズラリ。なんでも初代店主の趣味だそうだ。おい、欧風どこいった。

異国情緒にタイプスリップが加わってきた

取材という名目で、クリームコロッケやビフカツ、そしてビーフステーキを味わった。どれも「なつかしい味」で、ホッとする。特に気に入ったのはオムライスだ。お味噌汁と福神漬けが付いてきて、スプーン&フォークと一緒にお箸も用意されるところにキュンとした。

開港以来、この土地には外国人シェフも集まったそうだが、洋食は大変高価だったという。それを街中の洋食店が親しみやすい「地元の味」として広めたそうだ。なるほど、だから日本ナイズされているのか。接客してくれた二代目女将の日笠尚子さんに「オムライスは箸よりスプーンで食べると、よりおいしい」と指南いただいた。オムライスと、福神漬けをスプーンいっぱいにのせて、頬張り、みそ汁で流し込む。神戸で欧州文化を飲み込む醍醐味だ。

お味噌汁と福神漬けがうれしいオムライス

INFORMATION 欧風料理 もん
住所 神戸市中央区北長狭通2-12-12
TEL 078-331-0372
定休日 第3月曜
※営業時間は電話で問い合わせを

身もふたもない結論だが、神戸はヨーロッパではない。だけどここは「ホンモノ」だ。歴史の流れと土地の美しさから欧州人に愛され、ここに小さな欧州文化が持ち込まれたことは史実だ。時を経てそれが風土にしみこみ、ここにしかない「神戸文化」になって、風土から香り立っている。それは、世界中見渡したってここしかない「ホンモノ」だ。いつかヨーロッパを歩くとき、ふと神戸を思い出して恋しくなるだろう。そのたびに、わたしは神戸をまた、歩く。


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