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2023.03.29

神戸郊外にコーヒーショップが続々! ドライブ旅で個性豊かな一杯を

神戸郊外にコーヒーショップが続々! ドライブ旅で個性豊かな一杯を

開港以来、全国でもいち早くコーヒーを提供する店が現れ、独自の喫茶文化が根付いた神戸。

今も、街に根差したコーヒーの新たな魅力を発信するカフェやロースターが相次いで登場し、その波は六甲山の向こう側にも広がっています。

ここ数年で北区・西区には、開放的なロケーションを生かした個性派カフェや、人気コーヒースタンドの姉妹店など、街なかとはひと味違った注目のショップが続々オープン。

自然豊かな里山をドライブしながら楽しむ、心地よいカフェタイムへご案内します。

【文】 田中慶一
神戸の編集プロダクションを経て、フリーランスの編集・文筆・校正業。関西の食を中心に情報誌などの企画・編集を手掛ける。また、学生時代からのコーヒー好きが高じて、01年から珈琲と喫茶にまつわる小冊子『甘苦一滴』を独自に発行するなど専門分野を開拓。全国各地で訪れた店は約1000軒超。2013年より、神戸市の街歩きツアー「おとな旅・神戸」でも案内人を務め、2017年には、『神戸とコーヒー 港からはじまる物語』(神戸新聞総合出版センター)の制作を全面担当。

メルボルンスタイルを体現する“峠の焙煎所”「ridge」

店の前にあるバス停はその名も「峠」

神戸市街から車でおよそ30分。北を目指す有馬街道が、六甲の山並みを越える小部峠に差し掛かると、木々の間に“COFFEE”の文字を掲げた白亜の建物が現れます。

「店の名前“ridge”は英語で峠の意味なんです」とは店主の福冨真麻さん。

4年前に開店した、神戸駅前のコーヒースタンド「Coffee UP!」に続き、本格的に自家焙煎を始めるにあたって、2022年にできた姉妹店がこの峠の焙煎所です。

陽光が満ちた開放感たっぷりの店内では、コーヒー教室やパブリックカッピングも開催
開店前から研究を重ねてきた智也さんが焙煎を担当。

真麻さんと智也さんのご夫婦は、バリスタとして共にオーストラリア・メルボルンで2年間、経験を積み、日常に深く根付いた現地のカフェカルチャーを、ここ神戸でも体現しています。

「メルボルンのカフェは、コーヒーの品質が良く、気持ちの良い空間のお店が多くて。どんな郊外のエリアにも地元の人々のお気に入りの一軒があります。

いつか私の地元でもある北区でも、現地と同じコーヒー体験を楽しんでほしいと思っていたんです」と真麻さん。

広々とした店内には、焙煎室だけでなく、目の前でコーヒーを淹れるカウンターやカフェスペースも併設。

「バリスタとして、カウンターでのサービスを通して、いろんなコーヒーを知っていただき、楽しみを広げてもらえる場に」との思いが形になった空間です。

フロスティングのミルキーな甘みが後を引くシナモンロール450円。ドリップコーヒー500円。写真のエチオピア ゴチチ ウォッシュトはみずみずしい花の香りが印象的。浅煎りのコーヒーは液体の色の映え、導口でフレーバーが感じやすいガラスカップで提供。
ショーケースには、コーヒーにぴったりの焼菓子が並ぶ

時季ごとに替わるスペシャルティコーヒーは、深煎りのブレンド1種に、個性豊かなシングルオリジン5種を提案。

当初はブレンドを注文するお客がほとんどでしたが、風味の特徴を丁寧にプレゼンして、幅広い銘柄を試してもらうことで、今ではシングルオリジンのファンが多くを占めるまでに。

フローラルな香りやワインのような果実味、柑橘やハーブのような爽やかなフレーバーなど、今までにない多彩なコーヒーの味わいに出会えるのが、この店ならではの楽しみ。

また、オーストラリア独特のカフェラテ、フラットホワイトも人気。

浅煎りの豆を使ったエスプレッソの酸味がミルクの甘味を引き立て、後味に広がる華やかな余韻が印象的です。

ブレックファスト(~12:00)のアボカドトースト800円。ほんのりチリ風味のアボカドペーストはライムを絞るとさっぱりとした後味に。フラットホワイト500円。
ラテアートの競技会で優勝経験もある智也さん。コーヒーとミルクの比率もカスタムOK

さらに、コーヒーのお供にも、メルボルン仕込みのメニューが充実。

「ridge」限定のシナモンロールをはじめ、バナナブレッドやマフィンといったベイクに加えて、午前中は現地でお馴染みの朝食メニューも提供。

「メルボルンでは朝と昼下がりがカフェのピークタイム。

特に朝は、おいしいコーヒーと朝ごはんが欠かせません。」という真麻さん。

現地の定番・アボカドトーストや自家製グラノーラなど、ヘルシーな朝食は気持ちのいい1日の始まりにぴったり。

ちょっと早起きして、爽やかなカフェタイムからお出かけをスタートするのもおすすめです。

豆のパッケージは、それぞれのフレーバーをイメージしたラベルで分かりやすく提案
「メルボルンでは、お客さんによりコーヒーの多様な楽しみ方を伝えるのもバリスタの仕事。日常的にコーヒーショップを楽しむ文化を広げていきたい」という真麻さん、智也さん
Information ridge
住所 神戸市北区若葉台3-18-22
電話番号 なし
営業時間 ︎9:00~16:00
定休日 ︎水・木曜※不定休あり
公式サイト https://ridgebycoffeeup.stores.jp/

小さなマルシェのような開放的な空間が魅力「The Sowers」

市場の跡地の倉庫をリノベート。気軽に立ち寄れる開放感が魅力

「ridge」から峠を下ってさらに北へ。

住宅街を抜けた先、以前「神戸北町青空市場」があった敷地の一角に、2022年秋にオープンしたのが「The Sowers」。

「間口の広さ、開放感が気に入って」という店主の安田新汰さん、沙梨さん夫妻が始めた店は、小さなマルシェのような、オープンエアののどかな雰囲気が魅力です。

ドリップが始まると、芳しい香りが店内に満ちる
コーヒー豆は100g800円~。ブレンド2種、シングルオリジン2種を用意

「以前、アメリカを訪れた際に、キッチンカーのような移動販売のコーヒーショップを見て、“これで生活できたら楽しいだろうな”と思ったのが、店作りの原点」という新汰さん。

帰国後は、個人でコーヒーショップのイベント出店を始め、元町のコーヒースタンドやカフェで本格的に抽出、焙煎を経験。

コーヒーの品質評価に必要な国際認定資格も持つコーヒーのプロフェッショナルです。

「わざわざ来ていただく場所なので、ちょっと特別なコーヒーも提案したい」と、4種から選べるコーヒーには、時に期間限定で産地の品評会入賞豆や希少な銘柄も登場。

とはいえ、「試飲感覚で飲んでみて、いろんな風味を知ってもらえれば」と、いずれも1杯400円と、破格で楽しめる気軽さが嬉しい限りです。

ドリップコーヒー400円。写真は品評会で入賞したエチオピアのタミル・タデッセ農園(期間限定)。シナモンに似た芳香が鮮やか。素材の持ち味が際立つ、木の実と岩塩のタルト450円、平岡農園グリーンレモンケーキ350円。
焼菓子のほか、自家製酒種酵母の食パンも数量限定で販売

 店内の真ん中にある大テーブルには、沙梨さんがコーヒーとの相性を考えて手作りする、お菓子がずらり。

オーガニック素材を厳選して、体に優しい無添加のお菓子は、旬の素材の持ち味を生かした一品揃い。多彩なペアリングも楽しみの一つです。

さらに、その一角には、お菓子作りにも使われる有機栽培の野菜や果物も販売。

実は新汰さんは、コーヒースタンドでの修業時代、神戸ファーマーズマーケットに出店した際、生産者と交流したのを機に鹿児島県頴娃(えい)町で半年間の農業研修に参加。

店に並ぶ食材は、頴娃町と神戸近郊の農家から直接仕入れる安心・安全なものばかりです。

「研修で感じたのは、いいものを作っても、知ってもらう場所が少ないこと。コーヒーも同じ農産物なので、継続的に仕入れて販売することで、生産者とお客さんの関係を近づける場にできれば」と、日々の営業を通して、持続可能な食の楽しみも発信しています。

 「扉や壁がない素通しの店は、毎日イベント出店してるみたいで楽しい」という新汰さん。

「Sowers」とは種まきの意。奇しくも市場の跡地にできた店から、新たなにぎわいの芽が少しずつ伸びつつあります。

店とつながりのある農家から届いた旬の野菜。お菓子に使用した食材はメニューに明記している
「日々の暮らしが少しでも豊かになるお手伝いができれば」とお二人
Information The Sowers
住所 神戸市北区山田町原野字舟田2-1
電話番号 非公開
営業時間 ︎9:00~16:00
定休日 ︎水曜※不定休あり
公式サイト https://thesowers-kobe.com/

古刹の境内に開かれた地元の憩いの拠りどころ「太山寺珈琲焙煎室」

厳かな雰囲気が漂う、重要文化財の仁王門をくぐって境内へ
参道脇にある木造家屋を焙煎所に改装

郊外ならではのロケーションを生かした個性派ロースターは、北区ばかりでなく西区にも。次なる一軒は、なんと神戸市内唯一の国宝建造物を擁する太山寺の境内。

風情ある参道沿いに、2015年に開店した「太山寺珈琲焙煎室」です。

店主の横野貢司さんは、システムエンジニアからバリスタ、ロースターへと転身したユニークな経歴の持ち主。

西区へ移住したのを機に、自宅の一部を改装して焙煎所としてオープンしたのが始まりだとか。

テイクアウトのコーヒーは店頭で抽出
バラエティに富んだ豆の品揃えに目移りするのも楽しい

「コーヒーをオーダーする際、“苦くない”とか、“酸っぱくない”といった、ネガティブワードを使われることが多くて。

それをなくしたいというのが開店の大きな動機。

難しい話は抜きにして、コーヒーに対する先入観を解きつつ、その人に合った味わいを提案したい」と横野さん。

店頭では気軽に何でも聞けて、淹れる過程も目の前で見られる、オープンな店作りで、コーヒー好きからビギナーまで地元のファンを増やしてきました。

その一端が、ブレンド4種、シングルオリジン20種という豆の種類の幅広さ。

定番のブレンドは、さらり・ほどよし・あまにが、と、味わいが分かりやすく、直感的に選べるネーミングで提案。

一方、時季替りのシングルオリジンは、世界各地の多種多彩な銘柄が揃い、タイやベトナムなどの新興国や、加工のプロセスに特色のある豆など珍しいものも。

この懐深いラインアップから、丁寧にヒアリングしつつ、その時の気分や好みに応えてくれます。

コーヒー教室では焙煎の様子も間近に見ることができる
ホットコーヒー450円。お供に人気の和三盆50円の上品な甘みが好相性

また、毎週水曜には抽出や焙煎の教室も開き、普段見られないコーヒーの仕事の内側まで紹介するレクチャーも好評。

「僕も元々はコーヒーが飲めなかったので、ネガティブワードで頼む人の気持ちがわかるんです。

だからこそ、“今まで苦手だったけど、飲めるようになった”という声を聞けると嬉しい。

コーヒーのことが分からないという方ほど、来ていただきたいですね」。という肩肘張らないスタンスが、この店の人気の所以でもあります。

季節の移ろいを感じられるテラス席。春はお花見のお客でにぎわう
太山寺の寺紋である下り藤の中央にコーヒーの花をあしらったロゴマーク

当初は豆の販売がメインで、店内にベンチがあったくらいでしたが、口コミでファンが広がると共に庭にテーブルが増えていき、いまやオープンエアのカフェのような趣に。

コーヒーを通してコミュニティがつながり、地元の人々の憩いの場として定着しています。

「コーヒー片手に、桜や紅葉が見られるロケーションはここならではの魅力。

煩悩はお寺に置いてきてもらって(笑)、ゆっくりとコーヒーを味わってもらえれば」。

季節が変わるごとに訪ねたくなる一軒です。

「豆の販売や教室を通じて、コーヒーを楽しむ人口を増やしたい」と横野さん
Information 太山寺珈琲焙煎室
住所 神戸市西区伊川谷前開265-1
電話番号 078-945-6813
営業時間 ︎10:00~18:00
定休日 ︎土曜・第3金曜
公式サイト https://www.taisanji-coffee-works.jp/

どの店も、個性豊かなコーヒーの味わいのみならず、街なかにはないロケーションを生かした、開放的な空間とゆったりと流れる時間が印象的。

豊かな自然に抱かれた里山が都会のすぐ近くにあるのも、神戸の街の魅力の一つ。

外のコーヒーショップならではの大らかで心地よいくつろぎ、ぜひ体感してみてください。

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