フォトジェニックなレトロ建築がずらり! 「神戸旧居留地」の近代建築をめぐる街歩きコース

神戸の都心部・三宮から南の海側にある「旧居留地」。
整然とした街路に、重厚な石造りのビルディングが立ち並び、欧米のビル街のような異国情緒が漂うエリアです。
もともと江戸末期まで、砂地と田畑が広がるだけであった「神戸村」に、1868年の神戸港開港にあわせて、岸壁や波止場が整備され、さらに外国人が住み、働く場所として「居留地」が整備されました。
居留地の設計はイギリス人技師が担当し、ヨーロッパの近代都市計画技術のもと、格子状街路で区切られた区画に各国の領事館や商館が立ち並び、街路樹、公園、街灯、下水道なども整備されるという、当時の日本では最先端の街が建設されました。
当時の英字新聞では『東洋における居留地として最も良く設計された美しい街』として高く評価されました。
その後、1899年に居留地は日本政府に返還され「旧居留地」となってからは、海運業を中心とした日本企業による近代的なオフィスビルなどが建設され、神戸の経済発展を支えてきました。
現在も、居留地当時の区画がそのまま残っているほか、当時の面影を残す歴史的建造物や近代建築が数多く残っており、異国情緒あふれる街並みを楽しめる人気の観光スポットとなっています。
このモデルコースでは、旧居留地の代表的な近代建築を巡りながら、その歴史と文化、そして魅力を存分に味わっていただきます。
- エリア:
- 所要時間:
-
- 2時間
各線 三宮駅
徒歩【5分】
フラワーロード
各線三宮駅から、駅前を南北に通る大通り「フラワーロード」を南下して旧居留地に向かいます。
このフラワーロードには、かつて生田川が流れており、その川筋が当時の旧居留地の東端となっていました。
氾濫を繰り返していた生田川は、神戸開港から5年後の1873年、治水のため約500mほど東の現在の場所に付け替えられ、その跡地がフラワーロードとなりました。
ちなみに居留地の北端は西国街道、南端は海岸線(現在の浜手幹線の南側)、西端は鯉川(現在は暗渠で鯉川筋)となっており、東西約500m、南北約500mの狭いエリアでした。

東遊園地
その後1875年、フラワーロード沿いに日本初の西洋式運動公園として「東遊園地」(当時は外国人居留遊園)が整備されました。
そこでは旧居留地に住む外国人が、サッカーやラグビーなどのスポーツをプレーし、日本に西洋のスポーツが普及するきっかけとなったといわれています。
東遊園地は2023年にリニューアルされ、現在では緑豊かな都心のオアシスとして親しまれています。

東遊園地
- 住所
- 神戸市中央区加納町6丁目4
- URL
- https://eastpark.jp/
徒歩3分
神戸市立博物館
東遊園地を抜けて、西へ数分歩いた場所にある「神戸市立博物館」は、旧居留地散策のはじめに訪れるのがオススメ。
博物館1階にある常設の「神戸の歴史展示室」(観覧無料)では、古代から現代にいたる神戸の歴史を端的に学ぶことができます。
旧居留地についても、明治と昭和それぞれの時代の街並みを再現したジオラマ模型で、視覚的に理解することができ、その後の街歩きがさらに楽しく有意義なものになるはず。
ちなみに、博物館自体も昭和10年(1935年)に建築された「旧横浜正金銀行神戸支店」の建物を増改築したもので、国登録有形文化財に指定されています。
6本のドリス式半円柱が並ぶ、古代ギリシャ風の外観や、銀行だった当時を思わせる吹き抜けのエントランスなど、建築的にも見ごたえがあります。
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神戸市立博物館
- 住所
- 〒650-0034 神戸市中央区京町24番地
- URL
- https://www.kobecitymuseum.jp/
博物館のジオラマ展示でもそうであったように、旧居留地の歴史は「居留地時代」(開港~明治)と、「居留地返還後」(大正~昭和)に二分して考えると理解がしやすいです。
神戸港の開港とともに建設・整備された旧居留地の土地は諸外国に売却され、各国の領事館や商館などが、主に木造のコロニアルスタイルで建築されました。
その後1894年の条約により居留地返還が決まり、諸外国は地権と財産を日本政府に返還。
大戦景気による造船ラッシュや、関東大震災による横浜港の停滞を背景に、多くの日本企業が神戸に進出し、『旧居留地』には当時最先端であった鉄骨・鉄筋コンクリート造で重厚なビルディングが続々と建てられました。
徒歩【1分】
旧神戸居留地十五番館
その中でも1880年頃に建てられた「旧神戸居留地十五番館」は、唯一残る居留地時代の建物で、アメリカ領事館として使用されていました。
外観は、2階の南面に開放的なベランダをもつコロニアルスタイルで、柱頭飾りのある柱列が特徴的。
阪神・淡路大震災で全壊してしまいましたが、倒壊前の部材70%を使用し、免震構造を取り入れ建設当初の姿に再建されました。
現在は国指定重要文化財として指定され、レストランとしても活用されています。
※ 見学のみの入店は不可

旧神戸居留地十五番館
- 住所
- 〒650-0035 神戸市中央区浪花町15
- URL
- https://www.nozawa-kobe.co.jp/other/15ban.html
徒歩【1分】
チャータードビル
十五番館から浪花町筋を南に1ブロック歩くと当時の海沿いであった浜手幹線(国道二号線)に到着。
国道沿いに、向かい合うように「チャータードビル」と「神港ビルヂング」の2つのビルが建っています。
チャータードビルは、アメリカ出身の建築家で、日本の建築の近代化に大きな役割を果たしたJ・H・モーガンの設計で、イギリスのチャータード銀行の神戸支店として1938年に竣工した建物です。
イオニア式の柱や彫刻が施された装飾的な下層部と、シンプルでモダンな上層部の2層式の外観が特徴的。
内部については、装飾的な天井や大理石貼りの吹き抜けがある下層部は現在非公開ですが、上層部では、世界的デザイナーによるギャラリースペース「VAGUE KOBE」が2023年にオープンし、当時の間取りを活かしたクリエイティブな空間が広がっています。

チャータードビル
- 住所
- 神戸市中央区海岸通9−3
徒歩【1分】
神港ビルヂング
木下益次郎 の設計により、川崎汽船の本社ビルとして1939年に竣工した、旧居留地の近代建築群の中では比較的新しい建物です。
世界恐慌から第二次世界大戦へと突入していく当時の時代背景と、オフィスビルとして建てられたということもあり、装飾を排したシンプルなデザインの外観で、通りを歩いていると、他の現代的なビルに紛れて見逃してしまいそう。
しかし、見上げると屋上南東角にあるアールデコ調の塔屋が装飾的で、海岸通りの景観のアクセントとなっています。
建物1階にはカフェ・レストランがあり、一般での利用も可能。
当時から残るメールシューターや回転ドア、タイル床なども見ることができ、激動の昭和初期から、数多の人々が行き交いビジネスを展開してきた往時の様子を偲ぶことができます。
※ 飲食店のある1階以外のフロアは関係者以外立ち入り不可。

神港ビルヂング
- 住所
- 〒650-0024 兵庫県神戸市中央区海岸通8
徒歩【3分】
商船三井ビルディング
神港ビルヂングから西へ数分あるくと、優美な外観の「商船三井ビルディング」が現れます。
1922年に旧大阪商船神戸支店として竣工した建物で、設計は後に関西を中心に多くの近代建築の名作を残すことになる渡辺節。
この案件を担当するにあたって欧米を視察し、アメリカン・ルネサンス様式を参考に設計を行いました。
当時としては高層となる7階建てで、外壁の低層部分は表面の凹凸を残した石材を用い力強く迫力のある印象、2階以上は日本初となる暖かい色味のテラコッタが外壁に採用されたほか、上層部には装飾的なメダリオンが多数設置され一転優美な印象に。
最上階に至る場所には出っ張りのあるコーニス(軒先に突出した帯状の水平部分)が施され、下から見上げたときに、最上階部を一回り小さく見せ、より高さを感じる視覚効果があるようです。
第二次世界大戦の神戸大空襲では奇跡的に被害が少なく、1947年に昭和天皇が神戸を訪れた際には、このビルの屋上から神戸の空襲被害を視察されました。
さらに、1995年の阪神・淡路大震災にも耐え抜き、その後建物の裏手を鉄骨組で支える耐震構造を施されながら、2022年4月には竣工100周年を迎え、今も現役オフィスビルとして稼働しています。
大正生まれの大規模集合オフィスビルのなかで、竣工当時の姿を大部分で留めるほぼ国内唯一の事例とされています。

商船三井ビルディング
- 住所
- 〒650-0024 兵庫県神戸市中央区海岸通五番地 商船三井ビルディング
徒歩【1分】
シップ神戸海岸ビル
三井物産神戸支店ビルとして1918年に竣工した「シップ神戸海岸ビル」。
設計は明治・大正期に活躍し、神戸市を中心に多くの名建築を手がけた河合浩蔵です。
隣接する商船三井ビルディングと見比べると、商船三井ビルディングが『曲線的で優雅』なのに対し、シップ神戸海岸ビルは『直線的で厳格』な印象です。
古典的なルネサンス様式をベースにしながらも、装飾などの細部では、曲線を直線に簡略化した幾何学的な意匠がなされており、河合の留学先であったドイツを中心に起こったセセッション(分離派)の影響を感じます。
空襲にも耐え竣工当時の様子を保っていましたが、阪神・淡路大震災で全壊。
その際、外壁については保管を行っており、1998年に同じ場所に新しく再建された高層ビルの低層部に旧外壁が再構築され、現在の姿となりました。
エレベーターホールには、かつて南正面玄関ホールを飾った6本の御影石柱が据えられています。

シップ神戸海岸ビル
- 住所
- 〒650-0024 兵庫県神戸市中央区海岸通3
徒歩【2分】
旧居留地38番館
1929年(昭和4年)に、米・シティバンクの神戸支店として建てられた「旧居留地38番館」。
設計は神戸女学院や関西学院大学などを手掛けた「ヴォーリズ建築事務所」です。
デザインはアメリカン・ルネサンス様式となっており、南側正面に並んだ4本のイオニア式の円柱が特徴的で、両端は目地を目立たせた石積みで引き締められています。
暖かい茶色のクラシカルな外観が、白っぽい外観が多い旧居留地の建築群の中で際立っており、周辺の街路樹や街灯と相まって、ひときわお洒落な雰囲気が漂っています。
現在は、大丸神戸店の店舗としてハイブランドが入居しています。

旧居留地38番館
- 住所
- 〒650-0037 兵庫県神戸市中央区明石町40
徒歩【4分】
神戸メリケンビル(旧神戸郵船ビル)
38番館から再び海側に戻り、居留地の西端であった鯉川筋に来ると「神戸メリケンビル」があります。
この場所には、かつてアメリカ領事館がありました。
その南側にあった波止場は「メリケン(American)波止場」と呼ばれ、その後一帯が埋め立てられ、現在の「メリケンパーク」となりました。
今でも交差点の名前に「メリケン波止場前」という名前が残っています。
そのアメリカ領事館の跡地に旧日本郵船神戸支店として1918年に建設されたのが「神戸メリケンビル(旧神戸郵船ビル)」です。
設計は曾禰中條建築事務所で、鉄筋コンクリート造。外観は2層構成のファザードとなっており、入口上部の半円状のアーチ、窓や扉にある当時流行していたアール・ヌーヴォーの影響を感じさせる意匠など、同規模のシップ神戸海岸ビルや海岸ビルヂングなどと比べると曲線を多用した、古典様式に忠実なデザインとなっています。
元々屋上にドーム屋根があったようですが、神戸大空襲で焼失。
その後の阪神・淡路大震災の際は、奇跡的に前年の1994年に耐震補強工事を実施していたこともあり、軽微な被害で済みました。

神戸メリケンビル(旧神戸郵船ビル)
- 住所
- 神戸市中央区海岸通1丁目1−1
徒歩【3分】
海岸ビルヂング
神戸メリケンビルからさらに西に進むと「海岸ビルヂング」があります。
日本とオーストリア間の貿易の先駆けである商社・兼松商店の本店として1911年竣工した建物で、設計は前述のシップ神戸海岸ビルもてがけた河合浩蔵によるものです。
かつては、兼松商店の事業から「日濠館(にちごうかん)」と呼ばれており、3階建てながらも、巨大なペディメント(入口上部の装飾、戦災で焼失)をはじめ壮麗な外観は、当時海岸通りでもひときわ目を引いたといわれています。
ファザードは花崗岩貼りで装飾的である一方、建物の裏手にまわると、赤煉瓦の壁面となっているのがこの建物の面白いところ。
コンクリート造が多い旧居留地の現存する近代建築の中で、この海岸ビルヂングは煉瓦造となっているのです。
内部は1階から3階までを1つの大階段でつらぬく吹き抜け構造となっており、その天井には色鮮やかなステンドグラスが飾られています。
ショップやレストランなどのテナントが入居しており、内部の様子を実際に見ることもできます。

海岸ビルヂング
- 住所
- 神戸市中央区海岸通3丁目1−5