2026.08.06

ゆるりらと 神戸と出会う!~思いがけない出会いを楽しむ~

ゆるりらと 神戸と出会う!~思いがけない出会いを楽しむ~

神戸を拠点に、日々の光や、誰かのおまもりになるように絵を描けたらと思ったりしてます。
画家・イラストレーターの みしまあきひろ です。
まち歩きや散歩は、アイデアの原点。
この連載では、絵を描く手前にある視点を綴っていきます。

 

ちょっと力を抜いて、神戸を歩いてみませんか。「ゆるりらと」。
自分の中では、そんな言葉がしっくりくる歩き方です。
今回も兵庫区へ、バスにのって寄り道するように。
「ゆるりらと」まちを歩いてみました。

【取材・文・詩・絵】みしま あきひろ

神戸在住の画家、イラストレーター。絵を通して様々なコミュニケーションを介して作品を制作活動をしています。何気ない目線、人やまちとのふとした出会い、自然に文化と出会える心地の良い風が吹く、神戸をお届けいたします。

 

 

みなさんご存知でしょうか。

喜劇王チャールズ・チャップリンは、1936 年に神戸・新開地を訪れていたそうです。

当時の新開地は「東の浅草・西の新開地」と呼ばれ、映画館や寄席が立ち並ぶ娯楽の中心地でした。

 

チャップリンが姿を見せたのは、新開地繁栄の象徴だった大型娯楽施設・聚楽館(しゅうらくかん)。

映画評論家の淀川長治さんは、幼少期にその姿を直接目にしたとも伝えられています。

 

チャップリンのシルエットを模したシンボルゲート

 

そんな劇場文化の面影が今も残るまちを、今回もゆるりらと歩いてみました。

様々なドラマや物語が詰まってそうなそんな気配。

いざ劇場のまちへ

 

 

神戸新開地・喜楽館(兵庫区)

 

神戸の落語といえばのこの場所。

「寄席(よせ)をみにいく」この言葉はなんだか粋でおしゃれな感じがたまりません。

自分自身が落語に出会ったのは小学生の頃。落語家の桂吉弥さんに教わる機会がありました。

あれから時が経ち、最近ではドラマやアニメ、絵本などでも落語に触れる機会が増えています。

気づけば昔よりも、落語との距離を身近に感じる今日この頃。

 

 

入り口には喜楽館の文字と門。

ビリケンならぬメリケンという笑いの神様がお出迎えしてくれます。

手をかざすと笑い声が。笑い声はなんだかあたりを明るくする気がします。

まさに笑う門には福来るですね。

 

メリケンさん

 

今回特別に、支配人の伊藤史隆さんに館内を案内していただきながらお話を聞きました。

 

劇場内には、神戸の空気が散りばめられています。

喜楽館の階段にある提灯ですが、これは元町の「恋雅亭(れんがてい)」という、2020年に閉館した歴史ある寄席から頂いたものです。神戸の落語の精神を引き継いでいます。

新しく作りつつ、古いものへのリスペクトも忘れない。パルシネマさんの50年の歴史には及びませんが、入った瞬間にテンションが上がるような場所に、この喜楽館もなっていきたいなと思っています。

 

恋雅亭から喜楽館へ

また、寄席といえば赤い客席を思い浮かべますが、喜楽館の椅子は海のような青色。港町の景色のようです。

 

神戸への眼差しを大切にしているのはどうしてでしょう?

 

 

新開地が誕生したのは1905年。もともとこの場所には湊川が流れていましたが、
水害対策のため川の付け替えが行われ、
その跡地にできた新しい土地が「新開地」と呼ばれるようになりました。

 

やがて寄席や映画館が集まり、娯楽のまちへ。最盛期には24もの劇場が並び、
神戸松竹座では漫才や落語、浪曲、奇術など様々な芸能が上演されていました。

 

 

昭和20~30年代、港湾労働者や川崎重工、神戸製鋼といった工場の「三交代制」で、
24時間、街に人が溢れていて、仕事終わりの人が朝から一杯飲んで帰る、そういう街だったんです。

 

しかし、高度経済成長の終焉や阪神・淡路大震災を経て、まちの景色は少しずつ変わっていきました。

 

そんな中、「劇場のまち」としての賑わいをもう一度取り戻したいという市民の願いや思いが重なり、
2018年に喜楽館が誕生しました。

 

落語の魅力とはなんでしょう?

 

 

今はなんでも便利になっていて、
時代はコストパフォーマンスやタイムパフォーマンスが重視されますが、落語はその真逆です。

SNSは10秒ですが、落語は1時間をかけてオチまで持っていくこともある。

でも、そこには「深い笑い」があります。

落語は映像や舞台装置に頼りません。言葉だけで情景を描いていきます。

100人の観客がいれば、100通りの登場人物の顔を想像している。それが面白いんです。

落語は人を傷つけない優しい笑いであり、効率は悪く感じられるかもしれないけれど、
人生経験を積むほどに味わい深くなる芸能です。

 

喜楽館ができて、まちはどんな変化をしていますか。

 

 

街の人も「人が増えた」と実感してくれています。

喜楽館では様々な仕掛けを行っていて、昨年の秋から「神戸落語まつり」を始めました。

喜楽館だけでなく、兵庫区役所のホールや新開地アートひろばなど6箇所で一斉に落語をやったんです。

延べ6000人ほど来てくださいました。

 

その中でも好評だったのが、街の飲食店に落語家さんが参加する企画です。

 

焼きそば屋さんの厨房を借りて、師匠直伝の味を再現したり、カレー屋さんの店長を二日間だけ務めたり。
お喋りが上手い女性演者はスナックの「一日ママ」、イケメン落語家は「一日ホスト」とか(笑)。

まちの人も落語ファンも一緒になって楽しめる。
まちに寄席ができた意味を、こういう形で見せていきたいと思っています。

 

今年は10月24・25日に予定しています。

 

それから朝と夜は貸しホールになっていて。ジャズ、経済セミナー、ポールダンス 何でもありです。

 

「いい意味で猥雑な出会いがあるまち」

 

このまちは、一本路地に入ると家賃が安いから、若い人が面白いお店を始めていたり、
外国人もたくさん住んでいたりします。

盆踊りにインド人が混ざっていたりして、すごく自由度が高いです。

 

伊藤さんは、このまちの可能性を思い描くように微笑みながら話してくれました。

 

客席のブルーウェーブ

 

桂文枝さんが書いた「喜」と共に

 

落語は「それでも楽しく生きている」人たちのお話なのかもしれません。

新開地を歩いていると、自分自身も落語の登場人物の一人になったような気がしてきます。

そんな物語が、このまちにはまだ続いているのかもしれません。

みなさんも、寄席やこのまちに登場してみては?

 

 

Information

神戸新開地・喜楽館

住所 神戸市兵庫区新開地2丁目4-13
アクセス 阪急阪神「新開地駅」(徒歩2分)
JR『神戸駅」より徒歩13分
神戸市営地下鉄「湊川公園駅」より徒歩5分
神戸電鉄「湊川駅」より徒歩5分
営業時間 11:00~16:00
Instagram instagram.com/kirakukan_kobe_shinkaichi

 

パルシネマしんこうえん(兵庫区)

 

 

記憶が曖昧な幼少期。モールや商業施設のシネコンだけでなく、
神戸のまちなかには映画館が点々と残っていたことを覚えています。

 

少し暗い館内に並ぶ、赤い椅子。上映直前のブザーの音。
「これから何かが始まるんだ」とあの瞬間、ドキドキしていました。

 

新開地から北へ歩き、湊川公園へ。

 

その公園の下に、映画館が潜んでいます。そこはパルシネマしんこうえん。
今ではなかなか見かけなくなったロゴや文字。
様々な映画ポスターたちと赤を基調とした館内が出迎えてくれます。

 

 

今回は支配人の小山岳志さんにお話をお伺いしました。

 

パルシネマ支配人 小山岳志さん

 

パルシネマの大きな特徴は「二本立て上映」。

 

二本立ての醍醐味は、片方の目当ての映画を見に来て、もう一本はあまり期待していなかったのに
「意外にこっちの方が良かった!」「ひろいものした!」という発見があることなんです。

 

ネットでは意識的に自分の出会うものを選択しますが、自分で選んでいないものに出会えます。

ハードルが下がっているからこそ、新しいジャンルや監督にハマるきっかけになるんです。

 

 

映画館で映画を見る意味。
今はスマホやPCでどこでも映画が見れますけど、
映画館は「真っ暗な中で強制的に集中させられる空間」です。

 

スマホの電源を切って、作品の世界に没入する。

 

その時に受け取れる情報量は、家のテレビとは違ってくるんです。

 

私はふと、山にいくとき圏外になって山道に集中することを思い出しました。

映画館という「場所」そのものが特別なんだと。

 

その場所はどのように紡がれていったのでしょう。

 

 

おそらく昔は芝居小屋などをやっていたみたいです。

 

新開地自体が「映画のまち」というか、映画館がひしめき合っていて。
もともと映画評論家の淀川長治さんがここで生まれて、育った場所でもあるので。

 

昔は映画館だらけで、三宮ができる前は神戸の中心地も新開地だったみたいです。

 

資料は少ないのですが神戸タワーという建物もパルシネマの近所にあったそうです。

 

パルシネマは1971年の元旦にオープン。
それ以前は公園にある劇場だから、「公園劇場」という名で親しまれていました。

 

 

今は「しんこうえん」という部分に名残があるんです。

 

映画館が地下(土手の名残)にある不思議な構造は、かつての湊川(天井川)の付け替え工事や、
戦後のバラック撤去、駐車場の建設計画など、新開地の複雑な歴史と深く関わっています。

 

ロビーの不思議な地形はそこから来ています。

 

続けて小山さんは、ミニシアターの魅力も話してくれました。

 

 

ここは映写室に入れるんですよ。データだけでなくフィルムの上映をする事もあります。

 

 

独立系のミニシアターなので、柔軟に方向性が決めることができるんです。

 

喜楽館とも連携した映画や落語の面白さを互いに知ってもらう企画や、
サイレント映画にピアノ伴奏をつける上映企画など様々な取り組みをしています。

 

 

なかでも人気なのがオールナイト上映。

映画「愛がなんだ」や、ドラマ「冬のなんかさ、春のなんかね」などを手がけた今泉力哉監督。

 

今回は、監督自身が上映作品を選び、
朝まで観客と一緒に映画を楽しみながらトークを繰り広げるという贅沢な企画です。

 

そういう近さもファンにとっては特別な時間になるんですよ。

 

…とお聞きして、お話を聞いた後日に開催された今泉力哉監督のオールナイト上映にも参加してみました。

 

夜10時から朝7時まで。途中、睡魔と格闘しながら迎えた朝は不思議と清々しく、
映画館で過ごす時間そのものの豊かさを感じました。

 

そんな場所だからこそ、これから先も続いてほしいと思います。

 

オールナイト上映後の朝

 

ミニシアターが次々と閉館している現状についてもお聞きしました。

 

クラウドファンディングや地域の方々の支援なしでは、多くのミニシアターが
生き残ることが難しい状況にあるそうです。

 

小山さんが最後に伝えてくれた、

 

「まずは一本、気になっている映画を観に来てほしいんです。」

そうすれば、ミニシアターの面白さや、二本立ての魅力をきっと感じてもらえるはずです。

 

その一言がじわりと心に染み入りました。

 

映画を映すだけでなく、人の営みも映していく場所。

 

映画館は映画を上映するためだけの場所ではないのかもしれません。

 

 

映画を観にくる人がいて、映画を届ける人がいて、その時間が積み重なって続いていく。
当たり前にあるように見えるものほど、誰かの営みの上に成り立っているのだと思います。

 

パルシネマの魅力の一つは、「思いがけない映画と出会うこと」。

 

自分の想像する幅だけでなく、思いがけない場所があることで、
今だけじゃない、自分の居場所の選択肢があり続けるのだと思いました。

 

そんな寄り道の選択肢が、このまちにはまだ残っています。

 

またこのまちのミニシアターで映画を観たいと思います。

 

 

Information

パルシネマしんこうえん

住所 神戸市兵庫区新開地1-4-3
アクセス 地下鉄「湊川公園」駅(徒歩2分)
神鉄「湊川」駅(徒歩2分)
各線「新開地」駅(徒歩7分)
営業時間 10:15頃 ~ 21:45頃(作品により前後します)
Closed 年中無休
Instagram https://www.instagram.com/palcinema_kobe

 

気づけば、身の回りの景色は少しずつ変わっていきます。
朝起きたらスマホが更新されていて、
「あれ、この文字ちょっと見づらくない?」なんてこともあります。

それは画面の中だけでなく、まちの中でも起きているのかもしれません。

このまちには、映画館や寄席のように、
思いがけない出会いの余白がまだ残っています。

 

ゆるりらと。
さて、次はどんな神戸に出会えるでしょう。

 

 

 

歩んだ道と出会いから、
新たに描いた絵と詩をお届けしております。

それぞれの感じたままの神戸と出会えますように。

※今回の取材を元に絵と詩を毎回制作します。

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