2021.03.24
- グルメ
神戸の素材にこだわる、注目のパティスリーの夏のおすすめ

都会的なイメージもありながら、実は神戸は豊かな自然に囲まれたのどかな表情も持っています。こと、市内9区のうち最大面積を誇る北区には農村地帯が広がり、特産のイチゴや酒米山田錦、 チューリップの栽培なども有名です。今回ご紹介する2件のお店のある西区も然り。神戸市街からそう遠くない場所で、果樹栽培やワイン醸造なども行われていることは神戸市民の自慢でもあるようです。
今回は、フルーツだけでなく野菜やコーヒーなどご縁を大切にする「1004」、地元のフルーツを取り入れたお菓子を作る「パティスリー ドパリ アトレビアント」の魅力を紐解きます。
素材や生産者の気配を感じさせる、住宅街のアトリエショップ「1004」
生産者さんをリスペクト!お菓子を作るシェフの真摯な姿に感動「Pâtisserie de paris À très bientôt」
住宅街のアトリエショップ
1004/イチマルマルヨン
2019年11月23日にオープン。JR明石駅からバスに乗り換えて…、西区の住宅街の一角に、ショートケーキ&焼き菓子専門店「1004」はあります。



「竹内さんの朝取れ苺(おいCベリー)を使用したかったから」と、西区に店を構えた河合稔明さん。
神戸のブランジュリーやパティスリー、料理店での経験を経て独立した 河合さんは、生産者さん、素材とのご縁を大切にしたお菓子作りをモットーに、ショートケーキと焼き菓子の専門店を切り盛りしています。
「農家さんが毎朝直接届けてくれるイチゴの甘い香りやみずみずしさをお客様にもお届けしたい」そんな気持ちで作るお菓子は、料理同様に、まずは届いた朝採れイチゴの味を見てから、生クリームのブレンドバランスや甘みの調整を考えてバランスの取れたショートケーキを作り上げていきます。
ここだけの話ですが、生クリームには、隠し味程度に塩をひとつまみ。これがいい具合に、イチゴの優しい甘みを引き出して…。その味わいはまさにプレミアム!そんなイチゴショートケーキは5月いっぱいで終了。次回は12月初旬くらいにお目見え予定です。


季節の移ろいとともに、メロンやイチジク、北区のぶどうやシャインマスカットなど、河合さんが納得のフルーツに変わっていくショートケーキのほか、「天使のアイスクリーム」と「クッキーシュー」が夏のおすすめ。「天使のアイスクリーム」は、ショートケーキとイチゴのコンフィチュール、バニラアイス、ココナッツ風味のメレンゲ、オリーブオイルと岩塩を組み合わせた贅沢なアイスクリーム。オリーブオイルの香りが大人の味わいです。
また「クッキーシュー」は、ザックザクとした食感のシュー生地の中には、スポンジ、生クリーム、イチゴジャム、バニラアイス、岩塩が…。どちらもコーン、シュー生地の中に、イチゴのショートケーキを閉じ込めたようなイメージ。河合さんがこだわる農家さんのイチゴで作ったコンフィチュールを使用したこの2つは、暑い季節にぜひ食べたいスイーツです。


そのほか、西区の「ヤスオ農園」の王様トマトや「ナチュラリズムファーム」から届けられる野菜を使ったサブレも人気があります。無農薬のじゃがいも、玉ねぎを生地に練りこんで作るサブレは、カリッと歯ごたえもある上、野菜の味がしっかり!ビールやワインのお供に…と、男性客にも評判。


また、新商品の「3wayタルト」は、冷凍状態ならアイスケーキのように、常温に戻せば普通のタルトに、レンジや、オーブンで温め、アイスをのせればデザートに…と3つの楽しみ方を提案。夏のギフトにも喜ばれそうなタルトは、アプリコットとローズマリー、パイナップル&ココナッツの2種類。コンポートとソテー、2種の調理方法のフルーツを交互の並べた細長いスタイリッシュなタルトは、頬張る場所によって味が違う、そこも楽しい!食べたい気分で好きな食べ方で楽しんでみたいですね。


「今後(新型コロナウィルスが落ち着いたら)は、店内にテーブル&椅子も配して、イートインをスタートさせる予定。従来のスイーツはもちろん、ランチやデザート、自分の経験と感性を生かしたコース料理などを楽しんでもらえるような空間を作りたい」と河合さん。パティシエの枠にはまらず、フードコーディネーターとしてコンセプトに沿った新たな展開を構想中。これからも、ますます楽しみな一軒です。
1004/イチマルマルヨン
神戸市西区丸塚1-14-22
神姫バス「丸塚会館前」バス停から徒歩1分
☎078-921-1004
午後12時~午後6時
不定休
お菓子を作るシェフの真摯な姿に感動
Pâtisserie de paris À très bientôt/パティスリード パリ ア トレ ビアント
地下鉄伊川谷駅から徒歩約5分。赤を基調にした店構えは、まるでそこだけパリのような雰囲気。こちらを切り盛りするのは、オーナーパティシエの中尾誠一さんと奥様のお二人。
神戸で生まれ育った中尾シェフは、高校卒業後、地元の洋菓子メーカーに就職。10年、チョコレート菓子を作り続けたのち、28歳のときに本場のお菓子を学んでみたいと、渡仏。有名デパート「ル・ボン・マルシェ」のパティスリーで研鑽を重ねられました。
そして、2012年春、地元で店をオープン。自然に囲まれた神戸市西区は、農家さんなど生産者さんも多い街。そんな地元で「地産地消」をコンセプトに、季節感あふれる日々のお菓子を作られています。


ショーケースには季節のフルーツを使ったケーキなどが14種類。どのお菓子も、フルーツがみずみずしく生き生きとした表情、眺めているだけでワクワクした気分に。使用するフルーツは、冬から初夏にかけてはイチゴ、夏にはぶどう、桃、イチジク、秋には梨、柿など。神戸で生産されているフルーツは、結構種類豊富です。



「アルザスで働いていたとき、果物は自然の宝物で、生活の一部でした。毎日表情が変わるフルーツと向き合って、熟し具合や甘み、酸味、食感などをみてから、スポンジ生地の硬さを調整して配合を考えたり、生クリームに入れる砂糖の分量を調整したり…」。そんなお菓子へのアプローチを、ひたむきに続けている中尾シェフ。「農家さんが手塩にかけて作る果物をベストな状態でお菓子にしたい」という心意気は、お菓子を食べるお客様だけなく、素材を提供する農家さんにも喜ばれています。
「だってね…」と中尾シェフ、「農家さんがすごいんです」。
例えば、イチジクを生産している西区・なごみ農園の田中和広さん。苗数を極力減らして、1つ1つの実に日光がちゃんと当たるよう、実同士がぶつからないよう工夫し、栄養もたっぷり吸収されて味はもちろん、色や形も美しいイチジクを育てているのだそう。
「雨が降ると、甘みがぼやけるんですよね。そしたら、雨が降った翌日は『出荷できません』って言われるんです。田中さんが本当に良いものを吟味してくれるんです。だから、こちらも応えないとって思います」と…。そんな田中さんのイチジクを使ったムースやタルトはお盆明けから11月の末くらいまでショーケースに並ぶ予定。




そのほか、8年間、絶大な信頼とともに使われ続けている椿本農園さんの太山寺いちごや太山寺小学校の子供たちが育てたサツマイモを使ったり…と、地域との結びつきは強く、深く…。「毎年、太山寺小学校2年の子供たちが自分で育て収穫したサツマイモを使ってお菓子を作らせていただいているんです。子供達が、頬張って美味しい!と喜んでくれる姿を見るとうれしいですね」( 2020年度はコロナの影響で残念ながら中止の予定です)。
また、店のお菓子は、リキュールなどアルコールは不使用。ご年配の方から小さなお子さんまで、幅広いお客様が楽しめるようにという心遣いと、余計なものは使わず素材のおいしさを引き立てたいという思いの表れでしょうか。
さて、店名の「ア トレ ビアント」はフランス語で「またすぐにね」という意味だそう。その名前の通り、またすぐ行きたくなるお菓子が待っています。

Pâtisserie de paris À très bientôt/パティスリード パリ ア トレ ビアント
神戸市西区前開南町2-12-15 ルームズ学園北町1F
地下鉄伊川谷駅から徒歩約3分
☎078-939-2511
午前10時~午後6時半(現在はコロナ対策として午後6時閉店)
月曜、第2・3火曜休み
※営業時間と定休日の変更などはブログでお知らせします。
いなだみほ(ライター)
赤穂生まれ、神戸暮らし。お菓子、パン、雑貨などを中心に雑誌、ウェブなどで取材執筆。著書に「東京最高のパティスリー」(ぴあ)、編集から携わったムック「神戸のおいしいパン屋さん」、「神戸紅茶さんぽ」、「神戸土産の新定番」(共にグラフィス社)など。そのほか神戸を中心に、スイーツやパンのイベント「てくてくパンまつり」のショップセレクトなどにも携わる。