COLUMN

2021.03.26

老舗蔵元の挑戦から生まれた、酒処・灘の新たな銘酒で乾杯!

老舗蔵元の挑戦から生まれた、酒処・灘の新たな銘酒で乾杯!

開港以前より、全国に知られた神戸の名産品が日本酒。神戸市灘区大石から西宮市今津まで連なる「灘五郷」一帯は、六甲山系の水脈から湧くミネラル豊富な宮水、肥沃な土壌が育む上質の酒米、冬に吹く”六甲おろし”の寒風と、酒造りに適した条件がそろう理想の地です。400年前から一帯で酒造りが始まり、江戸中期以降は「灘の生一本」と称えられ、今も生産量日本一を誇る酒処です。今回は、酒造りが学べる蔵元の資料館や新たな取り組みが生んだ新商品、伝統ある灘の銘酒が楽しめる注目の新スポットなど、神戸ならではの日本酒の楽しみ方をご紹介します。

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CONTENTS
  1.  全国でも珍しい地下構造の槽場に注目「昔の酒蔵 沢の鶴資料館」
  2.  昭和初期の酒造りの様子をリアルに再現「白鶴酒造資料館」
  3.  震災を乗り越えた貴重な酒造用具を展示「菊正宗酒造記念館」
  4.  港町のパノラマを眼下に格別の一杯を「SAKE TARU LOUNGE」

全国でも珍しい地下構造の槽場に注目「昔の酒蔵 沢の鶴資料館」

日本酒好きなら、やっぱり酒蔵を訪ねたいもの。灘五郷のうち、神戸市内にある西郷・御影郷・魚崎郷には、見学施設が充実した酒蔵が点在しています。

まずは、灘区にある西郷の「沢の鶴」へ。1717年(享保2年)に灘の西郷で米屋の副業として、「※」の印を掲げて酒造りを始め、「米を生かし、米を吟味し、米にこだわる」の伝統を受け継ぎ、純米酒・米と麹と水だけの酒にこだわり続けています。

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江戸時代の酒蔵の風情を感じられる資料館の外観

300年以上続く「沢の鶴」の貴重な酒造りの道具や灘酒の伝統文化を展示するのが、「昔の酒蔵 沢の鶴資料館」です。酒造りの歴史を現代に伝えるために、江戸時代末期建造とされる大石蔵を1978年から公開。震災で一度は崩壊するものの、江戸期の酒蔵の風情を残し、1999年に再建されました。館内では、昔の酒造りの工程を紹介し、工程別に道具や資料を展示。大きなものは一升瓶約3,500本分もある大桶が並ぶ様子に圧倒されます。また、全国でも珍しいとされる、酒を搾りとる作業場が地下構造になった槽場(ふなば)跡や、江戸時代に大量輸送を可能にした、10分の1大の樽廻船の模型も必見です。

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地下構造の「槽場」跡。槽場とは醪から酒を搾りとる作業場のこと
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かつて上方から江戸へ酒を運んだ「樽廻船」の模型

併設の「ミュージアムショップ」では、資料館限定の純米原酒をはじめ、お土産にぴったりの多彩なお酒を販売。中でも、2019年に発売された兵庫県限定商品「Kobe1717」は、六甲山から望む美しい神戸の眺望を、そのままパッケージにしたデザインが人気。テーブルに映えるボトルは、食卓を楽しく彩ってくれます。また、2020年には、ロンドンで最初のオーガニック紅茶メーカー「HAMPSTEAD TEA」とのコラボレーションから生まれた「古酒仕込み 紅茶梅酒」も登場。3年以上熟成させた生酛造りの純米酒に、上質な紀州南高梅を漬け込んだ梅酒で、オーガニックのダージリン茶葉を抽出した新感覚のお酒は、”紅茶好きの街”でもある神戸らしい逸品です。

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兵庫県産山田錦100%使用の「Kobe1717」(720ml)1,972円(税込)。コクのある味わいと、すっきりフルーティな香りの純米吟醸酒
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「沢の鶴 古酒仕込み 紅茶梅酒」(300ml) 1,408円(税込)。南高梅の果実味とアールグレイの香りが、まろやかな古酒の味わいと調和
SHOP INFO

昔の酒蔵 沢の鶴資料館

住所:神戸市灘区大石南町1-29-1
☎078-882-7788
営業時間:10:00〜16:00
定休日:水曜休(祝日の場合開館) ※お盆、年末年始は休業
料金:入館無料

昔ながらの酒造りの様子をリアルに再現「白鶴酒造資料館」

続いては、東隣の御影郷にある白鶴酒造。1743年(寛保3年)に創業、270年を超えて培われてきた伝統を継承する「白鶴」は、全国に知られる灘のお酒のブランドの一つです。

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昭和40年代中頃まで現役で使われていた本店壱号蔵を改装

「白鶴酒造資料館」では、大正初期に作られた酒蔵で伝統ある酒造りに触れることができます。内部は昔ながらの酒造工程をそのまま保存。約500点もの酒造道具を、工程に沿って見ることができます。「白鶴酒造資料館」の特色は、等身大の人形を使って昭和初期の酒造りの様子を再現した展示。リアルな酒造りの様子を感じられるとあって、国内はもちろん海外からの来客も少なくありません。見学後は、利き酒コーナーで、資料館限定の搾りたての生原酒をぜひ味わってみてください。

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蔵人の息遣いが聞こえてきそうな展示は見ごたえあり

館内のショップでは白鶴の数々の銘酒も販売されていますが、中でも注目したいのが2019年6月に誕生した「別鶴(べっかく)」。「若い世代に、もっと日本酒を飲んでほしい」という若手社員の声から始まり、従来とは異なる”別格”のお酒を目指して開発に2年半をかけた新ブランドです。香草のような香りや、柑橘のようなほろ苦さ、ベリーを思わせる柔らかな甘みと、新感覚の風味を持つ3種の「別鶴」は、洋風の料理と合わせても楽しめる、カジュアルで軽やかな味わいで、日本酒の世界を広げてくれます。

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「別鶴」シリーズ(左から)レモングラスのような香りが爽やかな「木漏れ日のムシメガネ」、柑橘系のほろ苦さが心地よい「陽だまりのシュノーケル」、完熟した果実を思わせる芳酵な甘味の「黄昏のテレスコープ」各(720ml)2,742円(税込)の3種

また、長年の酒造経験を活かし、昔から女性が美容のために使ってきた酒粕や米ぬかの成分を活かした、化粧品のラインナップが充実しているのも、女性には見逃せないポイント。「米の恵み」「鶴の玉手箱」など3種を展開するブランドの中でも、「ライスビューティー ドラマティックリペア」は、特別純米酒や六甲山の自然水を配合し、純米酒の酒粕に含まれる豊富なアミノ酸で美肌作りをサポート。酒蔵ならではのスキンケアブランドとして、「ホテルオークラ神戸」のアメニティに採用されるなど高い評価を得ています。

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酒粕由来のうるおい美肌成分を全アイテムに配合した、「ライスビューティー ドラマティックリペア」。「洗う」「うるおす」「守る」の3ステップのアイテムで、しっとりもちもちの肌に
SHOP INFO

白鶴酒造資料館

住所:神戸市東灘区住吉南町4-5-5
☎078-822-8907
営業時間:9:30〜16:30 (最終入館16:00)
定休日:無休(お盆、年末年始のみ休業
料金:入館無料

震災を乗り越えた貴重な酒造用具を展示「菊正宗酒造記念館」

御影郷を代表する酒蔵の一つが「菊正宗酒造」。1659年(万治2年)、材木商の嘉納治郎太夫宗徳が、当時、先端の製造業だった酒造業を本格的に開始。創業360余年を誇る灘五郷でも屈指の老舗蔵元です。水と米と米麹から手間ひまかけて「酛」(酒母)を造る酒造りの原点「生酛造り」を継承し、料理を引き立てる辛口にこだわって食との融合を提案するなど、日本酒の魅力を発信しています。

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外壁や辻塀が伝統的な酒蔵の姿をしのばせる

創業時に、本嘉納家本宅屋敷内に建てられた酒蔵を、1960年に魚崎の地に移築して保存・一般開放していた「菊正宗酒造記念館」は、震災によって倒壊。ただ幸いにも、収蔵の酒造用具や小道具類は、ほとんどが無事、あるいは修復可能な状態で残り、今に受け継がれています。

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柱や梁には樹齢400年以上を経た木が使われている

「酒造りの原点を知ること」をテーマにした館内では、蒸米や麹をかき混ぜ酒母を造る酛場、の道具などが解説と共に工程順に並べられ、当時の酒造りの様子を展示。一番の見どころである酒造展示室は、ほぼ全てが「国指定重要有形民俗文化財」で、酒造用具を通じて、酒造りの過程や歴史が学べるほか、蔵人たちの仕事や生活、伝承の生酛造りの技が体感できます。搾りたて生原酒の利き酒やオリジナルグッズの販売もあり、オリジナルスイーツの「酒蔵ソフトクリーム」も人気です。

酒造記念館限定の「菊正宗 奉献 純米吟醸」をはじめ、ここでしか買えない銘酒もあり、館を訪れた記念に、またお土産にもぴったりです。さらに注目は、130年ぶりの新ブランドとして2016年4月に登場した「百黙」。料理を引き立てる「菊正宗」伝統の辛口とは対照的に、和洋を問わない幅広い料理とのマリアージュを楽しめるお酒です。原料米は、全て兵庫県三木市吉川特A区で契約栽培された山田錦100%使用。当初は兵庫県限定銘柄として始まり、今では様々なジャンルの料理人も注目する「百黙」。神戸を訪れたならぜひ手に入れたい銘酒です。

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兵庫県限定発売の、「百黙」純米大吟醸 無濾過原酒(720ml)2,962円(税込)。豊かな果実感、とろみと甘みが芳潤なフルボディタイプ
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「菊正宗 奉献 純米吟醸」(720ml)2,993円(税込)は、酒造記念館限定商品。すっきりした切れ味と調和のとれた豊かな潤いが魅力
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菊正宗酒造記念館

住所:神戸市東灘区魚崎西町1-9-1
☎078-854-1029
営業時間:9:30〜16:30 (最終入館16:00)
定休日:無休(年末年始のみ休業)
料金:入館無料

港町のパノラマを眼下に格別の一杯を「SAKE TARU LOUNGE」

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日本一の酒処・灘の銘酒を蔵元で味わうのも格別ですが、神戸の街を見晴らす、360°のパノラマとともに楽しめるという贅沢を叶えてくれるのが、2019年6月にオープンした「SAKE TARU LOUNGE」です。神戸のシンボル、神戸ポートタワーの展望3階、回転フロアに開かれた空間は、「世界初の廻る清酒ラウンジ」として、新たな名所ともなっています。

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酒樽を再活用したイスや、カウンター、箍(たが)を組合せた照明など、酒造りの道具を生かしたオリジナルのインテリアも注目

店内には、灘五郷の酒蔵のお酒を全種類ラインナップ。26ある蔵の銘柄を余すところなく取り揃えているのは、全国でもここだけです。お好みの蔵のお酒を選べるのはもちろん、3種の飲み比べセットには、直接酒蔵で買い付ける季節限定の銘柄や、先ほどご紹介した菊正宗酒造の「百黙」、白鶴酒造の「別鶴」といった老舗蔵元の新ブランドの飲み比べも提案。四季に合わせた酒カクテルも好評です。

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白鶴酒造「別鶴」、菊正宗酒造「百黙」も、3種の飲み比べ各2,000円(税込)で欲張りに楽しめる

さらに、お酒のお供にもこだわりが。神戸の老舗「トアロードデリカテッセン」のレバーペースト、「大井肉店」の神戸牛の佃煮のほか、新進気鋭のショコラティエ「JHOICE」が手がけるチョコレートや、灘の酒蔵の酒粕とクリームチーズ、蜂蜜を合わせた「酒粕クリームチーズ」など、個性派のオリジナルメニューも。地元の人気店とのコラボメニューもここならでは。神戸が誇る銘酒との多彩なマリアージュが楽しめます。

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盛り合わせSET (酒粕クリームチーズ、レバーペースト、甲南漬)1,500円(税込)。色鮮やかな酒カクテル1,000円~(税込)

1 周40分で客席が回転するフロアは、神戸ハーバーランド一帯から大阪湾へと広がる海から、六甲山・摩耶山と連なる雄大な山々まで見渡せる『大人のメリーゴーランド』。ゆっくりと移り変わる眺望からは、日本一の酒処を育んだ自然と風土の恵みを感じられます。この地で醸し出されたお酒を片手に、神戸の街を眺めるひとときは、まさに至福の時間です。

SHOP INFO

SAKE TARU LOUNGE

住所:神戸市中央区波止場町5-5 神戸ポートタワー展望3階回転フロア
☎080-9026-9154
営業時間:13:00~21:00 (LO20:30)、木・金曜・休前日~24:00 (LO 23:30)
※新型コロナ感染状況により変更あり、詳しくは要問合せ
定休日:無休

蔵元を訪れて酒造りの歴史に触れるもよし、港町の絶景とともに灘の銘酒に酔うもよし。醸造の過程から乾杯まで、余すところなく味わえるのは、神戸ならでは。今も美味なる銘酒を醸し続ける日本一の酒処で、新たな日本酒の醍醐味に出合えるはずです。


【文・写真】田中慶一

神戸の編集プロダクションを経て、フリーランスの編集・文筆・校正業。関西の食を中心に情報誌などの企画・編集を手掛ける。また、学生時代からのコーヒー好きが高じて、2001年から珈琲と喫茶にまつわる小冊子『甘苦一滴』を独自に発行するなど専門分野を開拓。全国各地で訪れた店は約1000軒超。13年より、神戸市の街歩きツアー「おとな旅・神戸」でも案内人を務め、17年には、『神戸とコーヒー 港からはじまる物語』(神戸新聞総合出版センター)の制作を全面担当。

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