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2021.03.26

神戸で100年以上続く老舗のニュースな逸品

神戸で100年以上続く老舗のニュースな逸品

いち早く海外に開かれた神戸は、舶来の文化の発信地でした。居留地と隣接する元町が第一の目抜き通りとなり、外国の食べ物や商品に親しむ場ができました。開港以来、西洋の生活を取り入れてきた港町には、当時の新たな変化を捉えたお店が登場し、今も地元に愛され続ける老舗が数多くあります。その中でも、今回は100年以上続く老舗の歴史とともに、新たな取り組みや注目の新作をご紹介します。


CONTENTS
  1. 看板銘菓のルーツをアレンジした新作に注目「神戸凮月堂」
  2. 本場ドイツの菓子作りを継ぐ「純正自然」の味を実現「ユーハイム」
  3. 厳選和牛の旨みが詰まった贅沢なお土産「大井肉店」
  4. 新たな試みに創業以来のサステナブル精神を継承 「永田良介商店R.nagata」


看板銘菓のルーツをアレンジした新作に注目「神戸凮月堂」

神戸グルメの代表格の一つが洋菓子。いまや神戸発の多くのスイーツショップは全国的な人気を得ています。中でも、1897年(明治30年)に創業した「神戸凮月堂」は、その原点ともなった老舗の一つです。1893年(明治26年)、初代・吉川市三氏は、日本の洋菓子の先駆でもある東京の「米津凮月堂」で菓子作りの修業を積み、暖簾分けの形で神戸に開店。当時の常識を破る欧風の店構えは、当時の目抜き通り・元町界隈でも一躍話題をさらったそうです。

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「神戸凮月堂」の代名詞といえば、何といっても銘菓「ゴーフル」。大正時代の末頃、洋行帰りのお客様がフランスの焼菓子を持参し、製造を提案されたのが始まりといわれています。ただ、真似るのではなく、「日本人の嗜好に合うように」と和菓子の伝統と洋菓子の新しさを融合させたゴーフルは、試行錯誤の末、1927年(昭和2年)に発売。第二次世界大戦中の原料統制など苦難を越えて、今では神戸を代表する銘菓として親しまれています。

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「神戸凮月堂」の代名詞ともいえる銘菓、8枚入り1,080円(税込)

長年、愛される味を守りながら、2013年(平成25年)に元町本店のリニューアルをきっかけに、旬の素材を盛り込んだ季節のパフェや、ワインとスイーツを共に味わえるサロン・ド・テを併設。新たな洋菓子の楽しみを提案し続けています。

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開放的で華やかな空間にリニューアルした元町本店

神戸を訪れたなら注目したいのが、本店限定の新作スイーツです。2020年(令和2年)10月に登場したのが、生感覚の食感が魅力のゴーフル、その名も印象的な「ゴーフニャ」。伝統的な挟み焼きで、一枚ずつ焼き上げた蜂蜜入りの生地にコクのあるバタークリームを挟んだ一品は、時間を置くほどにしっとりと味わいが染みわたります。

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ゴーフニャ216円(税込)。バタークリームは、バニラの香りとカソナードシュガーの食感が特徴

さらに、2021年(令和3年)には、見た目も愛らしいアップルパイ「三丁目のりんごちゃん」も発売。店頭で挟み焼きしたパイ生地に、りんごスライスフィリングをサンドした、サクサク食感とキレの良い甘みが好相性。併設のカフェでも楽しめます。

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三丁目のりんごちゃん378円(税込)。数量限定、冬~春の期間のみ販売
SHOP INFO

神戸凮月堂 元町本店
住所:神戸市中央区元町通3-3-10
TEL:078-321-5598
営業時間:10:00〜18:00、サロン・ド・テ11:00~18:00(LO17:30) 
定休日:無休(1/1のみ休業)※サロン・ド・テは月曜休(2021年4月から無休、1/1のみ休業)

本場ドイツの菓子作りを継ぐ「純正自然」の味を実現「ユーハイム」

洋風の食生活が急速に広がった大正時代、神戸には本場のパンや洋菓子の味を伝える店が次々に開業しました。その中の一つが、バウムクーヘンでおなじみの「ユーハイム」です。創業者のカール・ユーハイム氏は、第一次世界大戦で捕虜として収容されている際に、日独親善の一つとして1919年(大正8年)に広島市内の物産陳列館(現在の原爆ドーム)で催された、ドイツ捕虜の作品展示即売会で、日本で初めてバウムクーヘンを製造・販売。

横浜で独立開業したものの、1923年(大正12年)に関東大震災で被害を受け、神戸に移って再開。店頭にディスプレイされたバウムクーヘンは、当初「ピラミッドケーキ」と呼ばれ、カール氏自ら注文に応じて切り分けて販売したそうで、1960年代に入ると「バウムクーヘン」に改められ、誰もがお馴染みのお菓子として広まりました。

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元町本店では、今でも店頭で切りたてのバウムクーヘンを提供。削るような独特のカットが、食べやすさと、生地の味わいを際立てます。中でも、ぜひ味わってほしいのが、本店限定の「マイスターの手焼きバウム」。マジパンを生地に練り込んで焼き上げたしっとり食感は、切りたてで味わうと格別です。また、シロップ漬けリンゴを丸ごと包んだ、アッフェルバウムも本店限定のオリジナル。リンゴをかたどったラッピングもかわいい一品です。

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神戸元町本店オリジナル「マイスターの手焼きバウム」1枚108円(税込)
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神戸元町本店オリジナルアッフェルバウム2,160円 (税込)

創業以来、「自然に逆らわない」というドイツ菓子の考え方を元に、本場の菓子作りの技術と哲学を受け継いできた「ユーハイム」。2020年(令和2年)3月には、長年、取り組んできた、添加物不使用のバウムクーヘンを実現。素材本来の味を提供する、「純正自然」を宣言するとともに、ベーキングパウダーを使用しないパウンドケーキとバウムクーヘンのラインナップ「純正バターパウンドケーキ」を、2021年(令和3年)1月に発売。とりわけ、膨張剤を使わずにふんわり焼き上げたパウンドケーキは、100 年以上のバウムクーヘン作りで培ってきた技術の賜物。安心・安全を追求する老舗の姿勢が詰まった、新たな看板スイーツです。

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純正バターパウンドケーキ。(左上)ふんわりバウムクーヘン、(右上)ふわふわたまごケーキ 、(左下)しっとりフルーツケーキ、 (右下)濃厚ショコラケーキ各194円 (税込)

バウムクーヘンには素材の味を引き立てる国産、パウンドケーキには副材料が際立つようNZ産グラスフェッドと、バターの使い分けにもこだわりが。

SHOP INFO

ユーハイム 元町本店
住所:神戸市中央区元町通 1-4-13
TEL:078-333-6868
営業時間:11:00〜19:00、カフェ~18:00(LO17:30)、レストラン~15:00(LO14:30)
定休日:水曜

厳選和牛の旨みが詰まった贅沢なお土産「大井肉店」

洋菓子と並んで舶来の食文化として定着し、いまや世界的な人気の神戸ビーフ。そのおいしさを、いち早く広めた草分けが「大井肉店」です。

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神戸開港後、近郊で農家を営んでいた岸田伊之助氏が、外国船から依頼されて農業用の牛を納めたのを機に、1871年(明治4年)に神戸初の牛肉販売店を創業。そのおいしさを多くの人々に広めると共に、県内各地の牛を吟味し、解体技術や見分け方など品質向上の取り組みが、現在の「神戸ビーフ」の誕生へとつながっています。

また、1887年(明治20年)に開店した精肉店は、モダンな洋館造りで神戸の新名所ともなり、保存のきく牛肉味噌漬や牛肉佃煮といったオリジナル商品も開発。全国で評判をとりました。京都の老舗の白味噌に漬け込むことにより肉の旨味を引き出した味噌漬や、柔らかく炊き上げた佃煮は、今も初代の製法を変わらず受け継ぐ看板商品です。

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愛知県の明治村に移築された瀟洒な旧本店店舗

およそ150年続く神戸随一の老舗精肉店の味を気軽に楽しめるお土産として、おすすめしたいのが特製ビーフカレー・ハヤシビーフのレトルトパック。2020年(令和2年)にリニューアルされ、パッケージデザインから味わいに至るまで、全面的にブラッシュアップされました。

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レトロなパッケージデザインも人気の、老舗牛肉店のビーフカレー675円 (税込)
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老舗牛肉店のハヤシビーフ675円 (税込))

熟練の目利きで厳選された国産牛肉を使い、香味野菜とフォン・ド・ヴォ―を加えたカレー、玉ネギの甘みとデミグラスソースのコクが溶け合うハヤシ、いずれも肉の旨味あふれる贅沢な味わいに、老舗のこだわりが詰まっています。

SHOP INFO

大井肉店
住所:神戸市中央区元町通7-2-5
TEL:精肉売場078-351-1011 / レストラン078-371-0229
営業時間:10:00〜18:30(日曜〜17:30)
定休日:無休(1/1~1/2のみ休業)

新たな試みに創業以来のサステナブル精神を継承 「永田良介商店R.Nagata」

グルメだけでなくライフスタイルの随所に、港町ならではのハイカラな文化が受け継がれています。その中で、全国に知られる「神戸洋家具」の製作を手掛ける、最古参の一軒が「永田良介商店」です。

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創業者の永田良助氏は、郷里の岐阜から開港まもない神戸の英国商館に勤めた後、1872年(明治5年)に元町で道具商を開業。外国人が使った家財道具の修理・販売から始まり、本格的な西洋家具の製作に着手します。買い取った家具を修理する際に、家具職人として船大工を集め、分解・組立を繰り返して工程を研究。長年、磨かれてきた技と意匠を継承し、時代に合わせた家具作りを続けています。

現在の本店は、2020年(令和2年)11月に全面リニューアルし、1階に独自の切り口でセレクトしたアイテムを展開し、2階には内装の異なる2つのショールームを設け、ライフスタイルに合わせた家具のオーダーを提案。3階では自社製アンティークの家具の展示販売をし、リペアにも積極的に取り組んでいます。創業以来の信条である「修理を含めて永田良介商店の家具」という姿勢を改めて発信しています。

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床材や壁紙の異なる2つのショールームで、生活空間にあったオーダー家具を提案

一方で、新たな展開として注目を集めているのが、あの神戸ビーフの皮革を使った「神戸レザー」ブランドです。6代目となる永田泰資さんが、2018年(平成30年)に神戸の若手経営者とともに共同組合を立ち上げ、”食べたら使う”をテーマに、これまで活用されてこなかった皮革を用いた製品をブランド化。形状記憶の皮革を使った独自の素材感と造形は、海外でも注目を集めています。

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簡単に好みの形にできる、神戸レザー・Holder 16,500円(税込)。茶・キャメルの2色。
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神戸レザー・Trey 18,700円(税込)。凹凸の陰影の美しさを表現。赤・黒・茶・紺の4色。

さらに、オリジナルで開発した「R.Nagata Slippers」は、インソールに椅子張り用の海外高級ブランドファブリックの端材を活用し、アッパー部分に「神戸レザー」を使用。日本人の足型にあわせて、熟練の職人が一足一足、丁寧に作った逸品は、履くほどに足に馴染む心地よさ。すべて柄取りが異なる”世界に一つだけ”のスリッパは、これまで活用されてこなかった革と椅子の張地の端材という2つを使った、サステナブルな取り組みを体現する逸品でもあります。

創業以来、「100年使える家具」作りを追求する「永田良介商店」は、現代のSDGsをはるかに先駆けてきました。新たに生まれたプロダクトにも、脈々と受け継がれる”永田イズム”が息づいています。

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「R.Nagata Slippers」19,800円(税込)。S(Lady’s)・L(Men’s) の2サイズ。色は通常色の白・黒の2色と特別色のキャメル。
SHOP INFO

永田良介商店 R.Nagata
住所:神戸市中央区三宮町3-1-4
TEL:078-391-3737
営業時間:11:00〜18:00
定休日:水曜、第1・3・5火曜

西洋の生活・文化を先駆けて取り入れ、長い歴史の中で”神戸オリジナル”を生み出してきた港町の老舗。地元はもちろん、全国にも知られる逸品に磨きをかけながらも、絶えず新たな試みを続ける姿勢が、100年を超えて愛される理由の一つではないでしょうか。これからも、神戸発の老舗のニュースな取り組みに注目です。


【文・写真】田中慶一

神戸の編集プロダクションを経て、フリーランスの編集・文筆・校正業。関西の食を中心に情報誌などの企画・編集を手掛ける。また、学生時代からのコーヒー好きが高じて、01年から珈琲と喫茶にまつわる小冊子『甘苦一滴』を独自に発行するなど専門分野を開拓。全国各地で訪れた店は約1000軒超。2013年より、神戸市の街歩きツアー「おとな旅・神戸」でも案内人を務め、2017年には、『神戸とコーヒー 港からはじまる物語』(神戸新聞総合出版センター)の制作を全面担当。

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